第27話

 理解できなかった。


 しかし、それはさっきまでのこと。


 魔法を使った人間の記憶や思考まで理解した。しかも一瞬で。


 理解した上で、私が取る行動は一つしかない。


「おおおおおおおおおおおおおお!」


 黒い人型を追いかける。今の私なら、力一杯の一歩で届くはず。


「リンネセイバー、鍵の呪いを打ち砕け!」


 黒い人型を切り伏せた。しかし、そいつは加速し続ける。


 黒かった外皮が徐々に剥がれていく。剥がれながらも、超高速で前進を続けていた。同時に、私も最高速で移動を続けた。


 これでいい。私にはまだやることがあるから。


 急速に接近したため、目の前には仲間がいる。左腕を目一杯突き出し、盾に精神力を込めた。


「プロテクション!」


 縁の攻撃を止める。


「なっ……!」

「悪いわね、妹をやらせるわけにはいかないのよ」


 そのまま縁の身体を跳ね飛ばした。


「くそっ!」


 そう言ったのは式、いやアルバートだった。


 駆け出し、逃げようとしていた。


「そうはさせないわ!」


 彼の前を塞ぐようにして立ちふさがる。アルバートの後ろには、外皮が剥がれていく黒い人物。いや、本当の式が立っていた。


「肝念なさい。いろいろあって、今私たちは理解した。本当の敵の存在に」


 剣を構え、切っ先をアルバートへと向けた。


「ボクが誰だか、もうわかってるみたいじゃないか」

「ええ、知ってるわ。式の地位を乗っ取ろうとしたただの盗人、アナタがくれた鍵のお陰で、私はまだ戦える」

「失敗したな、キミに剣を向けられる日が来るなんて思ってもみなかったよ」

「私も、アナタに剣を向ける日が来るとは思わなかったわ」


 なぜならば、私はアナタが式であると信じていたから。


「でもキミは忘れている。ボクは式になり変わることができた。たくさんの鍵を持ち、その力でここまできた。ボクに勝てると、思っているから剣を向けているんだろう?」

「当たり前でしょう? 私はアナタを倒すわ」


 アルバートがニヤリと笑った。


 そしてその直後、彼の身体が光を帯びる。そして、小さかった身体が大きくなった。私よりも大きい、成人男性に変身したではないか。


「それが本当の姿ってわけね」

「本当の姿とは少し違うけど、戦うにはこうするしかないからね」


 アルバートが胸の前で手を握る。すると、光の剣が出現した。よく見えれば左手にも同じ物を持っている。二刀流か。


「逆に言うけど、私に勝てると思ってる?」

「ボクは鍵の力で強くなった。ボクを、侮るなよ?」

「元々魔法少女でもない者が、鍵の力で無理矢理戦闘能力を身に着けた。それで私に勝てると思ってるのかしら」

「やってみればわかることよ」


 身を屈めて重心を下げた。


「行くぞ輪廻」

「ええ、かかってらっしゃいな」


 同時に地面を踏み込んだ。


 私が突撃するように、彼もまた突撃してくる。この勝負はきっと長くは続かない。彼は「確実に勝てる」と思っている。だから短期決戦で攻撃してくるはずだ。それならばこちらも受けて立とう。


 今まで随分と謀ってくれたわね。それと私を侮った罪、ここで償わせてあげるわ。


 二人の身体が重なる前に、二人の剣が交わった。光の剣の力がどの程度かと思ったが、私が持っている剣と遜色ない物だ。つまりそれは、普通に剣ということだ。


 見た目に惑わされるな。彼は魔法少女ではないのだから。


 数秒の鍔迫り合いのあとで、少しだけ距離を取った。しかし、アルバートはすぐに着地して追撃を入れてくる。


 右手での攻撃を盾でいなし、左手での攻撃を剣で弾く。もう一度距離を取って、また激突する。それを何度か繰り返し、突進しようとするアルバートに対して、今度は私がより早く接近した。


 再度、剣と剣がぶつかり合う。


「ぐっ……! この馬鹿力が……!」

「魔法少女だもの、当然じゃない」


 他の魔法少女は手を出して来ない。いや、手を出せないのだ。


 鍵を有する者同士の高速にして光速の剣戟。それだけではない。他の魔法少女はもうだいぶ疲弊しているのだ。


 しかし、これは好都合だった。どれだけ腕を振り回しても誰かに当たる心配がない。なによりもよく観察できた。


「アナタは本当に、鍵を持っているだけの人なのね」

「どういう意味だ」

「結局、アナタはアナタ以外にはなれないということよ」


 そう、戦闘力が高いだけのただの人。確かに力強くて速い。けれどそれだけだ。魔法を持たず、転身もできない。


「ふざけるなよ魔法少女風情が……!」

「この世界では、魔法少女が一番強いのよ」


 剣を跳ね飛ばす。アルバートの身体が僅かに仰け反り、ようやく付け入る隙ができた。


 実のところ、私の魔法力も限界に近かった。鍵をもらったと言っても、その分千影の戦闘でかなり消費した。その点を考えると、アルバートと私の戦闘力はほぼ互角と言っても過言ではなかった。


 ただ、私の方が戦闘に慣れていた。


 アルバートは戦闘をしたことがないはずだ。彼は魔法少女に戦わせるばっかりだったから。


 肩口を入れて、アルバートの胸を肘で強打。更に隙が大きくなる。


「このっ……!」

「これで終わりよ、無に帰りなさい」


 柄を思い切り握りしめ、力いっぱい剣を叩きつけた。横にではない、下に向かって。無駄に吹き飛ばしては追い駆けるのが大変だからだ。

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