第14話

 式も機会をうかがい、その話をしようと思っていたのだろう。ただ、遭遇があまりにも早すぎたのだ。


「DSは無意識世界に来た瞬間、絶対にこの町から離れてどこかに行ってしまう。だからまだ大丈夫だと思ったけど、少し運がなかったみたいだ」

「こっちは殺されかけたのよ? 運がないなんて一言で済まして欲しくないわね。重要なことはもっと早く話なさい」

「うん、そうするよ」

「少しよろしいですか?」


 一通り話しが終わった。それを見計らってか、今度は真摘が話を振った。


「どうしたのマツミ」

「DSはなぜ魔法少女を狙うのですか?」

「さすがにそこまではわからないよ。ボクは鍵を通じて外の世界を見られる。だけど、思考までは読み取れない」

「やはりなにをするにも、DSと対峙するしかないようですね……」


 真摘の話を聞き、私は思い付いた。


「式、ノブレスで意識不明の人を斬ったらどうなるの?」

「一応イレギュラーにはなるけど、長時間は無理。しかも一回イレギュラーにしたら、向こう一ヶ月はノーマルのままだ。なけなしの精神力を無理矢理当てるわけだからね」

「ふむ……それじゃあ、果歩を元に戻す方法は?」

「DSをノーマルに戻せばいい。DSに吸収された精神力は、消費されるためじゃないんだ。DSの精神力の器を広げるため。だからDSがノーマルに戻った瞬間、吸収された精神力は魔法少女たちに帰るよ。それに鍵による負の連鎖も消えるから一石二鳥だ」

「じゃあ、行きましょうか」

「ちょちょ、どこいくの」

 縁が私の腕を掴んだ。

「果歩のいる病院よ。少し遠いけど、この姿ならすぐに着く。速くいかないと、起きる時間がきてしまうわ」


 地面を蹴って、病院に向かった。


 普通ならば一時間はかかる距離だが、魔法少女ならば五分とかからずに済む。


 果歩は現実世界のように寝たきりではなく、座ったまま外を見つめていた。アサミという少女の時もそうだったが、向こうで死んだり無意識になっても、こちらでは普通に起き上がったりするんだな。


「閃け、ノブレス」


 頭上から剣を振り下ろした。


 果歩の瞳には少しずつに光が戻ってくる。


「あれ? えっと、私……」

「久しぶり、果歩」


 私を見て、彼女は呆然としている。きっと千影に倒されたときの記憶があるんだろう。


「リンちゃんも、この世界に来ちゃったんだね」


 私も本当ならば、この再会を喜びたい。しかし、それはこの件が終わってからだ。


「果歩が意識不明になって、そのおかげでストレスの器がいっぱいになったみたい」

「ごめんなさい……」

「わかってると思うけど、今は謝っている場合じゃないわ」

「そうね。リンちゃんはどこまで知ってる?」

「この世界のことは、式に一通り説明を受けたわ。DSが千影だということも、そして元々果歩が魔法少女として戦っていたことも」

「チカちゃんとは戦った?」

「ええ、これでもかというほどにボコボコだったわ。真摘が来なければ、私も意識不明だったかも」


 空気を重くしすぎないためにも、軽く言うことにした。まあ、冗談にはならなそうだが。


 そんな気持ちを知らずか、果歩は私の背後に視線を移した。


「あら、真摘さんもいたのね。お久しぶり」

「お久しぶりです、月城先輩」

「二人は知り合いなの?」

「学校が一緒だったのですよ」

「まさかこんな所で再会するなんて、運命って怖いわね」


 なんて言いながら笑う果歩は、私の知っている果歩だった。こんなことになってるというのに、この人はのんきなものだ


「話を戻すわ。果歩も、学校でイジメを受けていたりしたの?」

「あまり表には出さないようにしていたけどね。私がいじめられるようになったのと、チカちゃんがイレギュラーになったのは、おそらく同じ時期なの」

「私だけじゃなかったのね」

「そういうこと。でも、私の場合はなぜか徐々にいじめが軽減していったの。理由はわからないけど」


 私と同じように、こちらでイレギュラーを狩って願いを叶えていた。というわけではないのだろう。


 では、一体なぜ?


「その理由は少し気になるわね」

「リンちゃんの方は緩和はなかったの?」

「イレギュラーをノーマルに戻せば、式が精神操作をしてくれるのよ。それで少しは緩和できているわ」

「時間……いえ、もしかしたら本人の成長で変わってくるとか、そういうことなのかもしれないわね」

「果歩とは少し年齢が離れているし、私がこちらに来たのは比較的最近。だから、ここで結論を出すには早すぎるか」


 それはDSを倒したあとで考えればいい。今は、他にやることがある。


「それもそうね」

「千影のせいで不幸になって、千影のせいで意識不明になった。それに関して、果歩は憎んでる?」 


 果歩は目を閉じ、しばらくしてから見開いた。


「私はチカちゃんを恨んでなんかない。きっとチカちゃんは、私たちよりももっと酷い目にあってるはずだから。リンちゃんだって、そう思ってるんじゃないの?」


 心を見透かされたようで不本意だが、私も同じ気持ちだ。


 ここ数年、千影とはまともな話をした記憶がない。だが、血がつながっていないとしても私の妹であることには変わらない。同じ屋根の下で育った妹なのだ。


「でも千影がノーマルに戻っていれば、それはすぐに解決したはず。千影が自分からノーマルに戻らなかった以上、彼女が責められて当然よ」

「リンちゃんはもうわかっているでしょう? チカちゃんがそうしなかった理由。それを解決しない限り、私たちはチカちゃんに全部押し付けることになる」

「それも含めて、あの子を捕まえないといけないわ」

「だけどチカちゃんの力は強力よ? 特に四つ目の魔法はね……」

「精神力の吸収ね。でもあの子を倒せば、果歩だって戻る」

「前にシキちゃんがそう言ってたわね。でも、倒せると思う?」

「そんなことはわからない。今のままだと無理、と言った具合ね」


 室内にいる五人は、同時に溜め息を吐いた。


 目的はわかっているのに、到達までの道のりが険しい。魔装を壊しても再生する。再生できないように精神力を枯らせるにも、逆にこちらの精神力が保たない。


「私も参加したのだけど、たぶん無理ね」

「DSを倒さないとカホは変身できない。今だって、あとどれくらいこうしていられるかわからないでしょうし」

「今ある戦力の情報を教えてもらえる?」


 果歩は私とは違う。勉強はそこそこ程度だけれど、頭の回転が妙に早く、相手の行動を予測したりするのが得意だった。


 私、縁、真摘の順に魔装の説明をしていく。


 リンネアーマーの転身魔法『シグルド』は不死身。いくら殺されても現実には戻らない。


 リンネセイバーの装備魔法『フレイズ』は物体の完全破壊。しかし一撃目は物体の本質を分析するため、その効果は二撃目からになる。


 最後のリンネシールドの装備魔法『アイギス』は完全防御だ。全ての攻撃を防御する盾だが、この魔法の本当の姿は完全防御などではない。これは鏡のように、同等の力を返しているのだ。リンネセイバーと違い、分析が必要ないのが強み。

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