第13話
身体が弛緩していくのがわかる。私はこんなにも緊張していたのか……。
転身を解くと、私はその場にしゃがみ込んでしまった。
「月城輪廻さんでいいのでしょうか?」
「え、ええ。アナタは?」
「私は
「式、それは本当なの?」
「うん。マツミはね、キミと契約する前から接触していた魔法少女なんだよ。特に契約とかはしてないんだけど、ボクの目からみても素質に溢れていたから」
「清咲院と言えば、あの清咲院財閥の?」
「はい、ご想像の通りです。ですが、清咲院家のことはあまり気にしなくても結構ですよ。私もその方が気楽なので」
彼女の微笑みは、花が咲いたように美しかった。清く咲くというのも、あながち間違いではないのかもしれない。
清咲院は日本でもトップクラスの企業だ。新聞でも大きく取り上げられるほどで、会社もそうだが、家もかなり大きいことで有名だった。確か隣町にあったはずだ。
「どう呼べばいいかしら」
「呼び捨てで結構ですよ。ちなみに高校二年生です」
「私のことも呼び捨てでいいわ。同い年だから」
真摘が差し出した手を、私は取った。情けないが、支えてもらって立ち上がる。
「DSはまた貴女を狙うでしょう。しかし、今の貴女では太刀打ちできない」
「心配してくれてありがとう。だけど、アイツは私がなんとかしなければいけないの。次は勝つわ」
相手の魔法は全て把握した。次はもう、不覚をとらない。
「――今の貴女では勝てないと、そう申したと思います」
無表情なのに、その瞳には強い意志のようなものを感じた。私は真摘に対し、間違いなく畏怖を抱いている。強固な意志を持つ瞳とは、ここまで心を揺さぶるのか。
「真摘は知らないと思うけれど、私の剣はなにものにも邪魔されない。そこに存在していれば関係なく破壊する。DSの魔法は分析が完了しているから、次からは壊すことが可能よ」
「この無意識世界では、壊すということに意味はありません。それはご存じですよね?」
「何度壊しても魔装が復活する、か」
「魔装の修復には精神力を使うけれど、あの方の精神力は尋常ではありません。あれだけの精神力を枯渇させるには、何十回、何百回、下手をすれば何千回と破壊しなければいけません。しかし、貴女にはその精神力がない」
「耳が痛いわ」
そんなこと、身に染みて感じているわ。
「DSは貴女に執着し、貴女はDSに確執を持っている。言えないことなのですか?」
「そんなことはないわ。私は現実世界でイジメを受けている。DSを倒せばイジメをなくしてくれると、式が言っていたわ」
「そう、式が……」
真摘は式に視線を送る。それをかき消すように、式が口を開いた。
「こうしよう! 現状ではリンネは勝てないから、マツミが協力する! はい決定!」
「勝手に決めないでもらえる?」
「リンネは、私が協力するのが嫌なのですか?」
「そういうわけではないわ。現に、縁だって私と共闘関係にある。協力してもらえるのならその限りではないのよ」
「ではなぜそのようなことを?」
そのような、とは「勝手に決めるな」と言ったことだろうか。
「――式。アナタは私に隠していることがあるわね」
縁も真摘も、DSの盾にできる。そうやって考えれば、共闘関係はとても望ましい。だが、私には気になっていることがあった。
「やられちゃったよーって、どうしたの? こんな神妙な顔して」
DSに倒されたはずの縁は、現実世界でもう一度寝直したのだろう。飄々とした態度で姿を現した。
その姿を見て、私は少なからず安堵していた。
「丁度いいわ。今から、式に話を聞くつもりだったし」
私の話を聞いているのかいないのか、縁と真摘が挨拶をしていた。まあいい、こっちはこっちで話を続けるだけだ。
「隠してること? この世界については全部話したと思うけど」
「とぼけても無駄よ。アナタは最初に言ったわ。DSの正体は知らない、と。でもそれは嘘。アナタはDSの正体を知っている」
「言ったでしょ? 彼女はここに来たときからあの甲冑をしてたんだよ。ボクが知るわけがないじゃないか」
「本当に? じゃあ、DSが私の妹だったのは知らなかったと」
「ちょ、ちょっとリンネ。それってどういうこと?」
「私も、DSの中身の話は初めて聞きました」
「声はくぐもっててよくわからなかったし、なんとなくでしかないわ。けれど、妹のような気がするの」
「気がするって、そんなただの勘でボクは疑われてるの? それは心外だな」
「これから協力関係をするにあたって、真相を知りたいだけよ。私の妹なのか、そうじゃないのか」
式は目をつむり、黙り込んでしまった。
数秒後、落ち着いた様子で話始めた。
「――本当は黙っているつもりだったけどね。リンネが正解だ。彼女は月城チカゲ、キミの妹だ」
やっぱり、ね。
この無意識世界はかなり特殊だ。近しい人間だからかもしれないが、感覚的に理解した。私は剣を交えただけでわかってしまうなんて、血のつながりとは難儀なものだ。
「それともう一つ、なぜ一ヶ月経ってから話を持ち出したの?」
「一ヶ月前に、元々DSの相手をしていた人が倒された。その人はノーマルになってて、しかも現実世界では意識がない状態。一ヶ月間代わりを探したけど見付からなくて、リンネに話しかけたんだ」
「一ヶ月前に、意識不明になったその魔法少女って……」
「キミの姉、月城カホさ。とても優秀な魔法少女だったけど、最後までDSには勝てなかった」
世の中とは皮肉なものだ。
果歩が戦っていた相手。その相手と戦うことになったのは果歩が原因だ。きっと私が無意識世界に来たのも、果歩が意識不明になったから。ストレスの器がいっぱいになった、原因なんだ。
しかし、気にしていては先に進めない。
「仕方ないと、受け止めるしかないわ」
「DSに対しては果歩だけじゃなく、いろんな魔法少女を当てたんだ。しかし、誰一人として勝てなかった。DSには、同時に魔法少女百人当てても倒せない。それは、彼女が鍵を持っているから」
「鍵、とは?」
「この世界を支えるのにはね、七本の鍵が必要なんだ。そのうちの三本はボクが持ってる。けど、あとの四本は無作為に選んだ人間の体内に宿し、現実世界の情報を集めてもらってるんだ」
「鍵を通して外の世界が見られるのね」
「うん。その鍵の一本を持っているのがチカゲ。しかし本来、鍵の所有者であるホルダーは、普通よりも器も大きいはずだし、一生を通してもイレギュラーにならないはず。でもチカゲは違った。イレギュラーになり、DSとして力を振るい始めた」
「ホルダーがイレギュラーになるといけない理由が?」
「他人の負の感情を集めてしまうんだよ。端的に言えば、イレギュラーになった瞬間から不幸体質になる。そしてそれは周りの人間にも伝染するんだよ。特に家族や恋人や友人に対しては」
私の現実がこんなことになってるのは、全て千影が原因だったのか。逆に言えば、千影はもっと酷い目にあっているということになる。
「現実世界での千影はどうなっているの?」
「具体的な内容は伏せるけど、かなり酷いもの。おそらくキミなんて比較にならない」
「果歩もそれを知って、千影を止めようとしたのね」
「そういうこと。ただし、ホルダーは無意識世界でとても強力な力を持ってる。鍵はこの世界を支えるものだから当然だ。それと魔法少女は普通三つの魔装しか持たないけど、ホルダーはもう一つ魔装が持てる。鍵がそれを可能にしているんだけど、DSの最後の能力によって、DSと戦った魔法少女はノーマルに戻ってしまうんだ」
「DSにノブレスを与えたわけじゃないんでしょう?」
「DSが持っているのは精神力の吸収だ。この世界で精神力がゼロになると、ノーマルに戻るだけじゃなく、現実世界では意識不明になってしまう」
先ほどよりも、頭が痛くなってきた。眉間には鈍い痛みが、しこりのように留まっている。人差し指と親指で押すと、更に痛みが増す。
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