第11話
学校ではほとんどイジメられなくなった。その理由と言えば、私をイジメていた連中が軒並み謹慎処分を受けたからだ。まだ正確に処分が決定しているわけではないが、退学の可能性もあると風のうわさで聞いた。
なにごともなく過ぎる日常がここまで有意義なのか。そう思いながら勉強しているうちに一日がサッと過ぎ去ってしまう。勉強が好きだからなのか、時間が立つのは早いものだ。
特に、イジメという「嫌な時間」がなくなったから尚更かもしれない。と言っても、クラスメイトから無視されるのは直ってはいないが。
眠りにつき、無意識世界へとやってきた。
上体を起こしてすぐに嫌な予感がした。昨日の女性の話を聞いた時と似たようなざわつきが、胸の中で渦巻いていた。
リビングに行くと「やあ、久しぶり」と、式が手を上げた。
「昨日も会ったでしょうが。それとここはアナタの家じゃないのだけれど?」
「まあまあ、堅いことは言わないでよ。今日はどうする?」
「そうね、昨日の女の人のことも気になるし、また隣町に行ってみようかしら。でも、少し嫌な感じがするわ」
転身して家を出た。当然のように式もついてきた。
少し歩き、背筋にぞわりと悪寒を感じた。
後ろを振り返り、今まで歩いてきた空間を凝視した。ノーマルが死んだときの感覚ではない。それよりももっとどす黒くて、全身の毛が逆立つような殺気。なんとなくだが、見られているのは理解した。それにしても嫌な視線だ。なにかが身体に絡みつくような、そんな気分になる。
「式。この感じ、ノーマルが死んだのとは違うわよね」
「うん、ノーマルは死んでない。これは明確な敵意だ」
空中から現れた式は、顔をしかめながらそう言った。
「この感じ、気のせいじゃなかったんだね」
「同じ感想を抱いた。つまりこれは――」
「二人とも、来るよ!」
上空からなにかが降ってきた。重苦しい音と共に地面と衝突。私は前へ、縁は後ろへ飛び退いた。
私たちの身長よりも高く、高く、砂塵が上がった。反応して飛ぶことしかできなかったため、飛来した物の正体はまだわからない。
急いで振り向けば、土煙の中で、赤い光が煌々と輝いていた。
「あれは……目?」
『ソレ』はこちらに歩いてきて、徐々にその姿が露わになっていく。頭から足まで黒い甲冑に身を纏い、赤い瞳をたぎらせていた。
「リンネ! ユカリ! そいつがDSだ!」
「「魔装、転身!」」
式の声を聞き、弾かれるようにして二人同時に転身した。
私たちの転身が終わった直後、DSは身の丈よりも大きな剣を振り回し、こちらに突進してきた。
相手の力量は不明。どんな魔法を使えるのかもわからない。この状況で後手に回るのは避けたいが、そうも言っていられない。
「守れ、アイギス」
相手はこちらの手の内を知らないはず。この盾を破ることは不可能だ。
「デスブリンガー」
DSの声はくぐもっていて、女性か男性かも判断できないほどに低かった。
左手の大きな爪で、リンネシールドがひっかかれた。「そんな攻撃に意味はない」と、そう言おうと思っていた。しかし、私からアイギスへの魔力供給が絶たれ、強制的に解除されてしまった。
「なん……!」
その刹那、大剣の衝撃が私を吹き飛ばす。
ものすごい速度で、私は家屋に突っ込んだ。魔法が解除されたといっても、一応盾としては機能してくれている。そのため、身体を上下に分断されずに済んだ。
相手の魔法がなんであれ、アイギスで防御すれば関係ない。そう思っていたのに、なぜあの攻撃は通るんだ。
追撃を受けないようにと、急いでその場を離れる。別に痛いわけじゃないし、すぐ動くことは可能だった。
「魔法の強制解除、か。また面倒な能力ね」
リンネセイバーのフレイズならば、分析して壊すこともできるだろう。だがアイギスには分析能力はない。かと言って、リンネセイバーを甘んじて受けてもくれないだろう。
アイギスは相手の力を反発し相殺する能力であって、無効化する魔法ではないのだ。相性が悪いと言わざるをえなかった。
そいつはゆっくりと、私を指差す。なにがあるのかと思い、自分の胸元を見た。
脇腹から肩にかけての大きな切り傷。リンネアーマーが紙切れにさえも見える。
この傷はいつつけられたのか。私はただ吹き飛ばされただけなのに。
「リンネ! 危ない!」
また一瞬で距離を詰められる。剣の方はいいとしても、あの爪は厄介きわまりない。
縁が叫んでくれたおかげで、突進を回避できた。
「猪突猛進とはこのことを言うのね」
「大丈夫?」と、合流した直後に縁は言う。
「ええ、一応ね」と、私はそう返した。
知らないうちに因縁でも買っていたのかと思考を巡らせた。私ばかりを執拗に狙う姿勢は、そう思うには充分だ。
瓦解に突っ込んだDSが、身体を揺らして立ち上がった。
「一気に叩くよ!」
「言われなくても」
次の突進を待つ私たち。それに反し、DSはその場で剣を振るうばかり。
「いつっ……!」
隣の縁が声をあげた。しかしDSはその場を動いてはいない。
「どうしたの? もしかして衝撃波かなにか?」
「違う、あれはそんな簡単なものじゃないよ」
DSが地面や建物を切り刻むごとに、縁の身体に傷か付いていく。
「対象物質のすげ替え……!」
おそらくはそれが大剣の魔法。今あいつを止めないと、縁に傷が増えるばかり。私の傷も、盾を攻撃した際に対象物質を入れ替えたのだ。
足に力を込め、跳躍した。
「はっ!」
防がれてもいい。今は縁に対しての攻撃を止めさせるのが最優先だった。
剣を上段に構え、疾駆と共に打ち下ろす。が、簡単に防がれた。
次いで、右からの袈裟斬り。引き際の横薙ぎ。しかし、その全てが防がれてしまう。
あの大剣は分析できたし、破壊もできる。すでに何度か折っているが、剣は何度でも修復される。ここは、そういう世界だ。私の完全破壊という能力は、ここまで役に立たないものだとは……。
「負けるものか……!」
もう一度、もう一度と、剣戟を続ける。
転身した時点で、現実ではあり得ない程の力を得られる。あんな大剣を振り回すのは容易だが、現実世界に慣れていると違和感は拭えない。
一応縁への攻撃は止んだ。しかし戦況は最悪。あの爪を壊せば、一瞬くらいの隙は作れる。爪に攻撃を当てるのがそもそも難しいことを除いて、その作戦で完璧なはずだ。
こちらの攻撃が鎧に触れていない以上、鎧の能力も明らかでない。
「最悪だわ……」
相性云々の話ではない。私の基本的な戦闘能力が、完全にDSに劣っているのだ。同じ魔法少女だと言うのに、この差は一体なんだというのだ。
また大剣に吹き飛ばされ、私は地面に膝を突く。
「もう終わりか」
「うるさいわね。ちょっと考えてるのよ」
「じゃあこちらから行こうか」
喋ったかと思えば、すぐに攻撃してきた。
「くそ……!」
今は防御に専念するしかない。それしか方法はないのだが、私以外に攻撃が当たると、今度は縁にダメージが入ってしまう。
それは、とんでもない悪循環だった。
夢の世界なのだから、いくら傷ついたって関係ない。特に私たちは、もう一度眠ればこちらに帰ってこられる。
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