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 美薗は徳川家臣を吸血鬼にし、蜘蛛の巣を広げるように吸血鬼を増やし、自ら武家の娘と偽り徳川家康の側室となり、陰で家康を操るが、家康には永遠の命は与えなかった。


 美薗の力は絶大で、やがて大阪の陣が勃発。夜明け前、大阪城の周辺は徳川軍に加勢した大名(吸血鬼)で溢れていた。


「淀を生かしてはならぬ!淀も秀頼も殺すのだ!」


「美薗様、我らにお任せ下さい。徳川軍に加勢し、必ずや淀殿も秀頼殿も自害に追い込んでみせます」


 ――大阪夏の陣――

 慶長二十年。


「淀の方様、大阪城本丸が砲撃されました!もはやこれまでかと!」


「この城を徳川家康に渡してはならぬ!」


 砲撃により大阪城は火の海となり、天井からは火の粉が舞う。


「母上様、もはやこれまで……。秀頼は自害致します」


「秀頼、何を弱気な!」


「淀の方様、実はこのようなふみが……」


 侍女に渡されたふみを広げると、そこには本能寺で自害したはずの、織田信長の筆跡。


「……これは伯父上様の直筆ではないか!?」


 ふみには『僧侶と薩摩に落ち延びるように』と、書かれていた。


「落ち延びる……とな?」


「使いの者が迎えに来ております。僧侶の扮装で落ち延びるようにと、申しております。城には外と通じる抜け道が用意してあります。淀の方様、秀頼様、大阪城はもはや落城あるのみ、迷っている時ではありませぬ」


「……わかりました。秀頼参りましょう。伯父上様のおおせの通りにするのじゃ。この大阪城を決して吸血鬼の棲みかにしてはならぬ。いつか決戦の時は来る!それまで生き延びるのじゃ」


 淀の方は秀頼とともに、城に造られた抜け道から落ち延びた。僧侶に扮し砲撃にあい落城する大阪城を見上げた。


 悲しみと憎しみに満ちた瞳の奥が……


 ――青き光を放った……。



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