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 小さな船宿。

 灯籠の灯りに照らされた遊女は、妖艶な笑みを浮かべ男の上になる。


「これは……おなごの身で大胆でござるな」


「女に上に乗られるのは、お嫌ですか?」


「それもまた……おつなもの」


 男が女の帯をほどく。

 女は男の首筋に唇を這わせた。


「わちきがそなたに永遠の命を差し上げましょう。そのかわり、わちきを……徳川家康殿に逢わせて下さいな」


「徳川殿に?遊女が天下の武将徳川殿にお目通りを願い出るとは……」


「どうしても、豊臣を潰さなければなりませぬゆえ」


「これは面白い、遊女が豊臣を……?うう゛……あぁー!!」


 遊女は大きく口を開け、男の首に鋭い牙を突き立てた。


「わちきの名は……美薗みその、未来の世から来た吸血鬼。徳川家康に伝えるのです。わちきを城に迎えいれよとな。豊臣を滅亡させるが、我が使命なり。ダンピールをこの世から抹殺し、吸血鬼の世を作るのだ!」


 女は再び男の首筋に喰らい付く。男は全身の血を吸われ、女の傍で痙攣している。その姿を冷たい眼差しで見つめながら、美薗は平成の世を思い出していた。


 ◇◇


 【美薗回想】


 ――平成の世――

 美薗は十二世紀のヨーロッパからタイムスリップした吸血鬼に襲われ、吸血鬼へと化身していた。


 そして新たな血を求めジョエルの屋敷に潜んでいた。


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