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「……ジョエル……ごめんなさい。ブラムが……ブラムが……」


「イチ……」


「わたくしを……殺して下さい……。お願い……殺して……」


「イチを……殺せと?」


「わたくしが……吸血鬼になる前に……殺して下さい」


「イチ……俺達はずっと一緒だ。生きる時も……死ぬ時も……一緒だよ」


 俺は地下室のドアを開けた。朝陽が城に差し込んでいる。


「ジョエル様ー!行ってはなりません!ジョエル様ー!」


 俺を引き留めようとしたセバスティを、もう一人のジョエルが刀で制した。


 俺はイチを抱いたまま、城の中を歩く。大きな窓からは朝日が入り、廊下を白く照らしている。


 俺達に迷いなどなかった……。


 俺達は……

 これでやっとひとつになれる。


 朝日が俺の腕を焦がし、チリチリと皮膚が焼けるように痛む。


 城の扉を開けると、太陽の光がさんさんと庭に降注いでいる。


 俺はイチと見つめ合い微笑む。


「怖くは……ないわ」


「俺も、怖くないよ。やっと永遠の眠りにつける」


 俺は城から一歩踏み出す。


 ――まだ人間だった幼き頃……。

 両親やセバスティと、この美しい庭でよく遊んだものだ。


 一歩……

 また一歩…………


 皮膚を焦がす太陽の陽射し……。


「……ジョエル」


「イチ……」


 俺達は互いの唇を求め……

 熱き口吻を交わす。


 ――庭に風が舞ったと同時に……


 俺達の体は一瞬にして灰となり……


 風に巻き上げられ……


 天高く舞い上がった。

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