black 10

ジョエルside

190

 客室に潜んでいた俺は、城の窓から両親や同族の旅立ちを見送る。


 この時代に生きる自分と遭遇した俺は、時空の歪みが起きはしないかと不安だった。


 同じ時代にジョエルが二人存在してはならない。時空の歪みが生じたなら、どちらかの俺は消滅してしまうだろう……。


 ――皆が旅立ったのに、イチはどれだけ待っても部屋には戻らなかった。


 何故だ……?

 まさか……もう一人の俺がイチを連れ去ったのか!?


「イチー!イチー……」


 俺は客室を出て城の中を走り回る。広い城の中にある何十もの部屋のドアを次々と開け放つ。


「イチ……一体何処に……」


 城の前にはセバスティが用意した馬車。

 馬車の中には誰もいない。


 イチは……

 この城の中に、まだいるはずだ。


 寝室に戻り、ベッドの下に隠した刀を取り出し、召し使いの部屋や物置小屋に至るまで探したが、イチの姿はなかった。


 この時代に、俺は必要ないということなのか……。


 夜空が白くなり始め、夜明けが近い。太陽が昇ると、俺は生きられない。イチの消息が気になりながらも、地下室のドアを開ける。


 俺の棺の隣に用意させたイチの棺……。


 イチの棺は使用したことがない為、棺のふたはいつも閉まっている。


 ――ふと棺に目を向けると……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る