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「もう一人の俺?」


「俺とイチは二十世紀の日本から、十五世紀の日本へとタイムスリップしたんだ。その地にもヴァンパイアが蔓延していた」


「なんと……」


「俺とイチは十五世紀の日本から再びタイムスリップした。そしてこの地に戻った。だがタイムスリップした月日と戻った月日が異なる。即ち、この地には二人いる」


「ま、ま、まさか……!?」


「東ローマ帝国ギリシャに行っている俺だ。この時代にいる俺は、もうすぐ帰国するはずだ。魔術で記憶を操りルーマニアへ連れて行ってくれ」


「魔術ですか?ジョエル様に通用するでしょうか?ジョエル様は俺よりも優れたお方ゆえ、魔術で記憶が操れるとは思えません」


 セバスティは大真面目に、そう答えた。


「俺は誉められているのか?」


「いえ、ジョエル様がこの世に二人いるとは、やはりピンときませんよ。ジョエル様とイチ様はどうされるおつもりですか?」


「イチは人間だ。大蝙蝠になり空を飛ぶことは出来ない。馬車で安全な国へと逃げる」


「……わかりました。俺はもう一人のジョエル様の記憶を操り、公爵様と共にルーマニアへお連れすればよいのですね」


「そうだ。セバスティにしか出来ないことだよ。人の生き血を吸うヴァンパイアは、一人たりともこの時代から他の時代にタイムスリップさせてはいけない。セバスティ頼んだからな」


「はい、畏まりました」


「両親には俺から話す。もう一人の俺が帰国次第、同族と共に旅立ってくれ」


「わかりました。馬車の用意は整えておきます。陽が入らぬよう、黒いカーテンをつけ、ジョエル様が鼠のお姿で隠れることが出来るボックスを、馬車の中にご用意致します」


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