ジョエルside

184

 ――この地に戻り半年が経過した。市が人間であることを隠して両親や一族と暮らすには、もう限界だった。


 十月も終わりが近付き、俺は意を決してセバスティを寝室に呼んだ。もちろんその場にイチも同席させた。


「セバスティ、大切な話がある。両親や召し使いと共に、ルーマニアへ行け」


「ルーマニア?これはまた突拍子もないことを。突然どうされました?」


「これから話すことを、よく聞くのだ。十一月、バルカン半島全域で民の暴動が起きる」


「民の暴動?」


「吸血鬼退治だ」


「吸血鬼退治?どうしてそのようなことを事前にご存知で?予知夢でも見たのですか?」


「俺はセバスティを信頼している。だから、信じて欲しい。民が集結し、この城とスラヴ人地域を襲った。バルカン半島のヴァンパイアを皆殺しにするためだ。

 首を切り落とし、心臓に杭を打ち、城に火を放った」


「なんと……!?」


「お父様もお母様も棺の中で杭を打たれ、召し使いは銃で撃たれた。俺とセバスティも襲われ心臓に杭を打たれそうになった」


「それで……俺達はどうなったのですか?」


「俺達は奇跡的に助かったんだ。未来にタイムスリップしたんだ」


「タイムスリップ?何ですかそれ?」


「時空を超えることだ。俺達は二十世紀の日本に飛んだ」


「二十世紀の日本!?」


 セバスティは目を見開く。


「俺達はその地で、イチと出逢ったんだ」


「イチ様は二十世紀の姫君ですか?」


「いや、違う。イチも同じように時空を超え、過去から未来に来たんだよ」

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