black 9
市side
182
バサバサと羽音がし、窓の隙間から大蝙蝠が飛び込む。
「きゃあ……」
大蝙蝠は一瞬にして姿を変えた。
「部屋の灯りが見えましたゆえ、窓からのご無礼をお許し下さい」
「ブラム……様」
「イチ様、お名前を覚えていただき光栄でございます」
ブラムはわたくしの腰に手を回し、グイッと抱き寄せた。
「馨しき匂い。空腹ならばすぐに吸い付きたくなる」
「ブラム様、お離し下さい」
ブラムの異様なまでの眼差し、口元から覗く鋭い牙に恐怖を感じる。
「伯父様や伯母様が騙せても、このブラムは騙せませんよ」
ブラムはわたくしの首筋に指を這わせた。
「綺麗な首筋。傷ひとつない。姫君は人間でございますね。ジョエルが人間を囲うとは、これは愉快だ。人間の生き血を吸わぬわけだな。絶食し姫君を堪能するつもりかと」
「……ジョエルはそのような方ではございませぬ」
「ジョエルはヴァンパイアですよ。人間の生き血が一番のご馳走。異国の姫君がヴァンパイアになる瞬間を、この目で見たいものだ」
「手を離さないと叫び声をあげますよ」
「叫び声?はははっ、上げればよい。城内のヴァンパイアどもがみんなあなたを喰らいに来るでしょう」
ブラムはわたくしの頬に唇を寄せた。
「姫君が人間だと、伯父様や伯母様が知れば、ジョエルはただでは済まないかもな。伯父様に知られたくなければ、俺の言うことを聞くのだ」
「……ジョエルはどうなるのですか」
「裏切り者への制裁は、例え親子であろうと許されない。ジョエルを殺されたくなければ、その唇に口吻をさせろ」
「……そ、それは出来ませぬ」
「人間だと、バラしてもいいのか?姫君の唇は必ずこの俺が奪う。このことはジョエルに話してはならぬ、よいな」
ドアの外で靴音がし、ブラムは大蝙蝠に姿を変え窓から夜空へ飛び立った。
わたくしは窓を閉め、震える指先で鍵を掛けた。
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