ジョエルside

181

 大広間に入ると、ブラムが人間を吸血していた。


 やはり、思った通りだ。

 こんな場所に、イチを連れてくることは出来ない。


「これは、ジョエル。この女の血は新鮮だ。処女だからな。お前にもしょくさせてやろう」


 ブラムが若い村人を胸に抱き、唇から血を垂らす。村人は顔面蒼白で息も絶え絶えだ。


「結構だ。お父様お呼びでございますか?」


「ジョエルか、姫君が来てからお前は晩餐に顔を出さなくなった。カトリーヌと心配していたのだよ。どうしたのだ?体の具合でも悪いのか?」


「俺達も元は人間だ。人間が人間を殺め吸血するなど、間違っている」


「間違っている?永遠の命を授かりし我らが、人間に同じ命を授けているまで。どこが間違いだというのだ」


「生き長らえることが、果たして素晴らしいことなのでしょうか?」


「あらジョエル。素晴らしいに決まっているわ。だからあなたも姫君に永遠の命を与えたのでしょう。姫君はあれから顔も見せない。ジョエルは宝物を隠す仔犬のようね」


「伯父様、伯母様、今宵はご馳走になりました。美しきジョエルの婚約者に会いに、また参ります」


 ブラムは唇の血を指で拭い、舌先で舐め取り、不敵な笑みを浮かべた。


 ブラムは大蝙蝠に姿を変え、窓から飛び立つ。全身の血を抜かれていない女は、苦しみ悶えた。


「セバスティ、楽にしてやるがいい」


「公爵様……。俺も……ジョエル様同様、人間は食さぬことに致しました」


「馬鹿馬鹿しい。血に飢えた召し使いどもですら、人間の生き血に飢え狙っておるというのに。これは処女の生き血だぞ。もったいないことを」


 父は女を召し使いの元に放り投げた。数人が女に群がり生き血を貪る。


 毎夜繰り返される光景。

 見慣れた光景だが、俺は嫌悪感すら感じていた。


 汚れた血を恨み。

 呪われた体を憎んだ。


 

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