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ブラムが部屋を出たあと、ジョエルがわたくしを抱き締めた。
「イチ、大丈夫か?何もされていないよな。誰が来てもドアを開けてはいけないと言っただろう」
「……はい」
「ブラムはカンの鋭い男だ。先程の立ち振る舞いと言動、イチが人間だということに気付いたのかもしれない」
「ジョエル様、イチ様をこの城にとどめて置くのは、危険ではございませんか?」
「かといって村に移すわけにも行かないよ。村の至る所にヴァンパイアは潜んでいるのだ」
「とにかくブラム様を、このお部屋に近付けないことでございます」
部屋がノックされ、召し使いが俺達を呼びに来た。
「ジョエル様、公爵様がお呼びでございます。晩餐にイチ様とご一緒に顔を出すようにと」
「わかった。イチはこの部屋にいろ。俺達が出たあと、ドアに内鍵を掛けるんだ」
「……はい」
ジョエルとセバスティは共に部屋を出る。
わたくしは言い付け通り部屋に内鍵を掛けた。緊張して火照る頬を冷ましたくて、夜風に当たるために窓を開ける。
見えるのは断崖絶壁と海。
平成の世で見た海と、とてもよく似ている。
――茶々……
初、江……
元気にしているだろうか?
脳裏に浮かぶのは……
愛しき三人の姫。
わたくしは北ノ庄城で死んだ身。もうあの時代に戻ることなど出来ない。
ジョエルを吸血鬼と知りつつ、わたくしはジョエルを愛してしまったのだから。
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