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 わたくしの目の前で、ジョエルの父親と数名の召し使いは大蝙蝠へと変身した。


 開け放たれた窓から、大蝙蝠は夜空に飛び立つ。


 そういえば……ジョエルはいつもわたくしに寄り添い、片時も離れない。


「ジョエル……顔色が悪いですよ。もしや、何も食していないのでは?」


「俺はイチがいれば、それだけでいい。大丈夫だ、吸血しなくても死にはしないよ」


「でも……」


「さぁ、寝室に戻ろう。香水で誤魔化していても、イチは人間の生き血の匂いがする。ヴァンパイアは血の匂いに敏感だからな。傷など作ってはならない。この館で一滴たりとも血を流してはならない。いいね」


「はい」


 ◇


 ――この屋敷に来て、数ヶ月が経過した。わたくしはジョエルとセバスティのお陰で、人間であることを隠し、今も吸血鬼の城で暮らしている。


 セバスティが秘かにわたくしに食事を与え、わたくしは生き長らえている。


 けれどジョエルは、日増しに弱っていくように思えた。


「ジョエル、何も食してないのでしょう。わたくしなら大丈夫、ジョエルが吸血鬼でも構いませぬ。どうか……わたくしの血を……」


「俺は人間を吸血しない。イチを吸血しないと、何度も言ったはずだよ」


 寝室のドアが開き、セバスティが入って来た。


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