177
わたくしの目の前で、ジョエルの父親と数名の召し使いは大蝙蝠へと変身した。
開け放たれた窓から、大蝙蝠は夜空に飛び立つ。
そういえば……ジョエルはいつもわたくしに寄り添い、片時も離れない。
「ジョエル……顔色が悪いですよ。もしや、何も食していないのでは?」
「俺はイチがいれば、それだけでいい。大丈夫だ、吸血しなくても死にはしないよ」
「でも……」
「さぁ、寝室に戻ろう。香水で誤魔化していても、イチは人間の生き血の匂いがする。ヴァンパイアは血の匂いに敏感だからな。傷など作ってはならない。この館で一滴たりとも血を流してはならない。いいね」
「はい」
◇
――この屋敷に来て、数ヶ月が経過した。わたくしはジョエルとセバスティのお陰で、人間であることを隠し、今も吸血鬼の城で暮らしている。
セバスティが秘かにわたくしに食事を与え、わたくしは生き長らえている。
けれどジョエルは、日増しに弱っていくように思えた。
「ジョエル、何も食してないのでしょう。わたくしなら大丈夫、ジョエルが吸血鬼でも構いませぬ。どうか……わたくしの血を……」
「俺は人間を吸血しない。イチを吸血しないと、何度も言ったはずだよ」
寝室のドアが開き、セバスティが入って来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます