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市side

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 わたくしは戦国の世から、ジョエルの祖国に舞い降りた。


 タイムスリップ……時空を超えるということが、わたくしには未だに現実とかけ離れた気がして、夢の中の出来事のような気がしてならぬ。


 異国の城は、日本の城とは異なり、きらびやかな装飾品や家具で溢れていた。


 ジョエルの父上様は位の高き公爵。母上様は華やかなドレスを身に纏った、美しき貴婦人。


 この城に住む者が、全て吸血鬼だとはわたくしには信じられなかった。


 平成の世で目にした、日本の歴史が書かれた書物。その書物に書かれていたことが、現実に戦国の世で起きた。


 夫、浅井長政の死。明智光秀の謀反により追い詰められた兄織田信長を、本能寺でジョエルが救いだしたが、羽柴秀吉により、二人目の夫、柴田勝家は自害に追いやられた。


 三人の姫は、その羽柴秀吉に……。


 北ノ庄城でわたくし達を襲った女の声が、今も鼓膜に張り付いている。


 ――『この世はいずれ我らが支配する。そのために、丈、お前は邪魔なのだ。そしてお前とお市の娘、ダンピールである茶々もな!吸血鬼の敵は生かしてはおけぬ!いずれ殺めるのみ』


 その言葉の意味が、わたくしには理解出来ずにいた。

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