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「問題はこの時代に生きている俺だ」


「ジョエル……、どうしてこの時代にジョエルが二人いるのですか?わたくしが戦国の世に戻った時、わたくしは一人でございました」


「イチは偶然同じ日の同じ時刻に戻ったんだ。俺は魔力で転落したイチを救い、洋服を着替えさせ、お花の記憶を転落から転倒に摩り替えた。信長の記憶も操り、俺は織田の忍びになった。だが、この地に俺とイチがタイムスリップしたのは四月、俺とセバスティが日本にタイムスリップしたのは十一月、同日同時刻ではなかったんだ」


「だから……この地にはもう一人ジョエルがいると……?」


「そうだよ」


「ジョエル……北ノ庄城で別れた姫達は大丈夫でしょうか」


「書物によると三人の姫君は、羽柴秀吉に引き取られたはず。生きているから安心しろ」


「それを聞き安堵致しました」


 俺はイチに茶々のことを聞きたかった。

 でも聞けなかった。茶々が俺の子であるならば、それはダンピールを意味する。


 吸血鬼と人間の混血。

 その定めを知れば、イチは心を痛めるだろう。


「イチ、家族やセバスティを救い、俺達はこの地を去る。二人で別の地でひっそりと暮らそう」


「はい。ジョエルとならば、何処へでも参ります」


 俺はイチを抱き締める。

 愛する者と共に過ごせる喜びに、心は満たされていた。

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