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 セバスティが部屋を出たあと、俺はイチが美味しそうに食事する姿を見つめる。よほどお腹が空いていたのか、イチはペロリと食事を平らげた。


「ジョエル……人間を招いてパーティーとは……?」


「イチ、それは人間を吸血するためだよ」


 イチはナイフとフォークを皿の上に落とした。ちょっと過激過ぎたかな。


「イチ、我らは元々人間だったんだ。九世紀この地にスラヴ民族が数名流れついた。彼らは痩せて目だけがギラギラとし、とても飢えていたんだ。心優しい母は、スラヴ民族を城に招き入れ食事を振る舞い、寝床を与えた」


「お母様はとても優しいお方なのですね」


「惨劇は、その夜起きた……」


「惨劇……?」


「そのスラヴ民族は、ヴァンパイアだったんだよ。両親も俺も眠っている間に襲われた。奴らは連日連夜、逃げ惑う召し使い達を、狩りをするみたいに襲った。俺はあのまま死んでしまいたかった。だが……両親も俺も、召し使い達も命を吹き返した」


 イチの大きな瞳に、涙が浮かぶ。


「目覚めた時、俺は……醜いヴァンパイアになっていた」


「ジョエル……」


「あれから三世紀もの間、俺達は獣や人間の生き血を吸い、生き続けた」


「もう……話さないで」


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