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「美しき黒髪に、黒き瞳、唇は赤き薔薇の花びらのようですね」


 母は赤ワインを口にしながら、イチを見つめる。白い喉がごくごくと音を鳴らした。


 セバスティはイチのグラスに、赤ワインを注いだ。


 イチは不安げに、俺をチラッと見上げる。


 ――大丈夫、それは血ではない。ただの赤ワインだ。


 俺は微笑みながら頷く。

 イチは安心したように、一口だけ口に含んだ。


「日本とはどのような国ですか?」


「日本は今……戦国の世でございます」


「戦国の世?この国も戦いは絶えません。皇帝権力も衰退し、貴族の力が増しています。それもみな我ら同族の力なり」


「姫君、ヴァンパイアになり人間とはことなる悦びを体験なさいましたか?」


「……っ」


 イチは言葉に詰まり俯く。


「お母様、イチはまだヴァンパイアになったばかり、これから俺が色々と教えていきます」


「そうでしたね。美しき容姿。花に群がる蝶のように、人間の男爵が群がることでしょう。羨ましいこと」


「お母様、イチは俺のものだと言ったはずですよ。人間の男に触れさせたりはしません」


「あらまぁ、随分お気に入りのようね。姫君、ご自分の家だと思い、ゆるりと過ごしなさい。この城にはヴァンパイアしかいませんから。ご安心なさい」


「……はい」

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