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「やっと全てを思い出したみたいだね。ここはヨーロッパ、俺の祖国だ。この城には俺達家族と三十人の召し使いが住んでいる。父はサクソン ロイド公爵。母はカトリーヌ ロイド。晩餐でイチを紹介するから、そのドレスに着替えて」


「ジョエル、わたくしはまだ何がどうなったのか、混乱しておりまする。茶々や姫達は……」


「三人の姫君はきっと無事だ。詳しいことは、晩餐のあとでゆっくり話すよ」


「はい」


「イチ、ひとつだけ守って欲しいことがある」


「何でございますか?」


「この城には、吸血鬼しかいない。イチが人間だと知れると、血に餓えた吸血鬼に襲われかねない。だからイチも吸血鬼の振りをするんだ。いいね」


「な、なんと……!?このわたくしが吸血鬼!?」


「大きな声を出すな。召し使いに聞かれてしまうだろう。イチが人間だということを知っているのは、俺とセバスティだけだ」


「セバスティが……生きているのですか!?」


「ああ、俺達が吸血鬼狩りにあいタイムスリスリップしたのは十一月だからな」


「……吸血鬼狩り」


「この時代にはもう一人俺がいる。半年近く東ローマ帝国ギリシャに渡っていたから、今は不在だ。両親の前では俺の話に相槌を打つだけでいい。この国の言語はセバスティの魔術で授ける」


「セバスティが……!?」


「イチ、急いで着替えて。ドレスの着方は、平成の世で教えたからわかるよね?」


「はい」


 俺は羽織袴を脱ぎ、刀をベッドの下に隠した。



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