black 7

ジョエルside

165

 ――ヨーロッパ、バルカン半島。寒暖差は大きく、夜になると一気に冷え込む。


 広葉樹、針葉樹の森林。高台からは海が一望出来る。崖の上には何世紀も続くロイド公爵の城があった。


「おっと……これは失礼しました。ジョエル様、東ローマ帝国ギリシャへ旅行されたのでは?いつお戻りで?」


 俺は懐かしい男の声に重い頭をもたげる。


「……ここは?」


「ご自分の城をお忘れですか?美しき貴婦人とご一緒とは存ぜず失礼致しました。しかし珍しき着物でございますね?その貴婦人は……岸に流れ着いた異国の姫君ですか?」


「異国の……姫君?」


 俺はベッドから起き上がり、隣に視線を向ける。


「イチ……」


「ジョエル様まで異国の着物をお召しとは。とにかくそのような着物は早く脱いで下さい。ロイド公爵に見られると、大変な騒ぎになります」


「ああ、わかった。セバスティ、今は何世紀だ?」


「今は十二世紀でございますよ。四月でございます。色惚けも大概にして下さい。ジョエル様早く着替えて」


 セバスティはパチンと右手を鳴らし、俺の洋服とイチのドレスを用意した。


 俺とイチは、崩れ落ちる北ノ庄城からこの地にタイムスリップしたんだ。


 俺はこの地に戻った。

 吸血鬼狩りが始まる前の、この地へ。


「なんという幸運!セバスティ……。生きているのだな」


 俺は思わずセバスティに抱き着く。


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