163

「……ずっと?」


「この城に、イチが嫁いだ時からずっと……」


「なぜ、声を掛けてくれぬ。なぜ、姿を見せてくれぬ。なぜ……今になって現れるのじゃ。死なせてはくれぬか。勝家殿と共に、逝かせてはくれぬか……」


「ダメだ。イチは死なせないよ。俺と共に生きるのだ。俺はそのために、ずっとこの地で生きて来た。イチを救い出すために、ずっと……」


「わたくしを救い出すために……!?」


 突然、襖が開く。

 炎の向こうに、着物姿の女性が見えた。


 ゆらゆらと揺れる炎からは、黒煙が上がりその女性の顔は見えない。


「早く自害するがよい!吸血鬼でありながら、同族を殺す裏切り者は、この世から去るがよい!この世はいずれ我らが支配する。そのために、丈、お前は邪魔なのだ。そしてお前とお市の娘、ダンピールである茶々もな!吸血鬼の敵は生かしてはおけぬ!いずれ殺めるのみ。ふはははは……」


「お前は誰だ!」


「牢獄の中で、死ねばよかったものを。ぬけぬけと生き延びるとは。お前も人の生き血を吸う吸血鬼。だが、もはやこれまでじゃ!」


 女は襖に炎を放ち立ち去る。逃げ場を失ったわたくし達は、メラメラと燃え盛る炎の中で抱き合った。


 天板が崩れ落ちる。火の粉と煙の中で、わたくしは呼吸が出来ず噎せかえる。


「こほ、こほ、こほ、丈……最期に教えて下さらぬか。茶々が丈とわたくしの子供だというのは……本当でございますか?丈が……吸血鬼というのは……。こほ、こほ」


「イチ……。茶々姫の父親が誰なのか、それは俺にもわからない。イチにしかわからないことだよ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る