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「……ずっと?」
「この城に、イチが嫁いだ時からずっと……」
「なぜ、声を掛けてくれぬ。なぜ、姿を見せてくれぬ。なぜ……今になって現れるのじゃ。死なせてはくれぬか。勝家殿と共に、逝かせてはくれぬか……」
「ダメだ。イチは死なせないよ。俺と共に生きるのだ。俺はそのために、ずっとこの地で生きて来た。イチを救い出すために、ずっと……」
「わたくしを救い出すために……!?」
突然、襖が開く。
炎の向こうに、着物姿の女性が見えた。
ゆらゆらと揺れる炎からは、黒煙が上がりその女性の顔は見えない。
「早く自害するがよい!吸血鬼でありながら、同族を殺す裏切り者は、この世から去るがよい!この世はいずれ我らが支配する。そのために、丈、お前は邪魔なのだ。そしてお前とお市の娘、ダンピールである茶々もな!吸血鬼の敵は生かしてはおけぬ!いずれ殺めるのみ。ふはははは……」
「お前は誰だ!」
「牢獄の中で、死ねばよかったものを。ぬけぬけと生き延びるとは。お前も人の生き血を吸う吸血鬼。だが、もはやこれまでじゃ!」
女は襖に炎を放ち立ち去る。逃げ場を失ったわたくし達は、メラメラと燃え盛る炎の中で抱き合った。
天板が崩れ落ちる。火の粉と煙の中で、わたくしは呼吸が出来ず噎せかえる。
「こほ、こほ、こほ、丈……最期に教えて下さらぬか。茶々が丈とわたくしの子供だというのは……本当でございますか?丈が……吸血鬼というのは……。こほ、こほ」
「イチ……。茶々姫の父親が誰なのか、それは俺にもわからない。イチにしかわからないことだよ」
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