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「茶々、もう下がりなさい」


「はい、母上様。丈、ゆるりと休むがよい」


「はい」


 茶々姫様が部屋を出て、俺はイチと二人きりになった。イチは出逢った頃と変わらぬ汚れのない美しき瞳で俺を見つめた。七年もの投獄に耐えることができたのも、イチのことを愛すればこそ……。


「丈……わたくしは毎夜同じ夢を見るのじゃ」


「同じ夢でございますか?」


「異国の風景。山の上に聳え建つ白き屋敷。小鳥の囀ずりと美しき……」


「美しき?」


「……何でもござらぬ」


 突然、イチは視線を伏せ言葉を濁した。


「お市の方様、どのような夢かわたくしにお話下さい。そうすれば気持ちも楽になりましょう」


「戯れざれごとじゃと、笑うでないぞ」


「はい」


「その城からは青き海が見え、美しき殿方が二人。後ろ姿しか浮かばぬが、髪の毛は金色に輝いておる。その者達は、馬よりも速き乗り物で山を走り抜けるのじゃ」


 ――イチ……

 全ての記憶を取り戻したのか?


「馬よりも速き乗り物でございますか?」


「すまぬ。やはり、戯れ言であったな」


「続きをお聞かせ下さい」


「吸血鬼と言う言葉を、以前聞いた気がするのじゃ。丈から聞くよりも前に……、何かの書物で読んだ気がする……」


「どんな書物でございますか?」


「吸血鬼……退治……なる書物じゃ。他にもこの世のことが書かれた書物を見た気がする。兄上のことが……書かれていた気がしてならぬ。茶々の話を聞いているうちに怖くなって……。本当に謀反が起きるような気がしてならぬのじゃ……」


「お市の方様、他にはなにが浮かびましたか?」

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