black 5

ジョエルside

145

 俺はイチに牢から救い出された。髭も髪も伸び見るからに薄汚い風貌の俺に、イチは煌びやかな着物が汚れることを気にもとめず、俺に駆け寄った。


 白い足袋も赤土色に染まり、それでも俺に優しい眼差しを向け、牢番に強い口調で指図した。


 牢番は昨日までの態度とは明らかに異なり、俺を支え手厚く介抱した。


 俺は湯につかり体に染み付いた汚れを落とし、髭を剃り洗髪した髪をひとつに束ねる。


 真新しい紺地の着物に袖を通し、袴を身につけ、座敷で食事を与えられた。


 痩せ細ってはいたが、毎夜獣を吸血していた俺はさほど空腹ではなく、人間の食事に箸はつけず僅かな飲み物だけを口にする。


「お市の方様がお呼びでございます」


 侍女に呼ばれ、俺はイチの部屋に向かう。イチは人払いをし、俺を部屋に招き入れた。そこには茶々姫の姿もあった。


 茶々姫は十四歳に成長し、美しい姫君になっていた。長き黒髪、黒き瞳、白い肌に紅き唇。


 イチにとてもよく似た、美しき姫。


「丈……茶々でございます。よくぞ、ご無事で……」


「茶々姫様も健やかに御成長され、見目麗しく……」


「丈……本当にすまぬことをした。お許し下さい」


「茶々姫様、わたくしのことなどお気になさらないで下さい」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る