144

 わたくしはその足で、地下の牢獄に向かう。牢番に兄上の意向を伝え、じめじめとした暗い地下を歩く。


 このような暗闇の中に……

 七年もの時を……。


 行灯の明かりだけを頼りに進むと、記憶の中に……ある風景が甦った。


 以前……このような薄灯りだけを頼りに、同じように暗い場所を歩いたような気がする。


 ――狭い……廊下……

 その先には……

 黒い……


 牢番が牢の鍵を開けた。

 牢獄の中に、足枷をされ横たわる丈の姿。


 髪と髭は伸び……痩せ細った足には足枷。

 足は擦り切れ血が滲み、ぼろぼろの着物は異臭を放ち生死すら定かではない。


 黒装束を纏わぬ丈を見たのは、その時が初めてだった。


「……丈……生きておるのか?丈……」


 丈の指先が微かに動いた。


「丈の無実が兄上にわかってもらえたのじゃ。罪は晴れたのじゃ。立てるか?」


「……はい」


「この者は無罪なり。この者に湯を使わせ新しき着物を与え、十分な食事を与えるのじゃ。よいな」


「ははぁー」


 牢番はわたくしに膝まづき、直ぐ様丈の足枷を外し、体を支え牢から連れ出した。


 わたくしは長き投獄により、丈が正気を失い狂っているのではないか、兄上の申した通り、餓死や衰弱死しているのではないかと心を痛めていたが、丈の生存を確認し安堵した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る