ジョエルside

141

「丈、丈……」


 俺は茶々姫の心細い声に、天井より降り立つ。


「茶々姫様、どうなさいました?」


「黒い狼は丈が退治したのか?」


「はい、もうご安心を」


「そうか……」


 茶々姫は俺に抱き着き、安堵したように瞼を閉じた。


「眠れないのですか?」


「はい、くせ者が茶々の命を狙っております。茶々は殺されてしまうのですか?」


「茶々姫様は殺されたりはしません。この丈が命に代えてもお守り致します。安心しておやすみ下さい」


 茶々姫を布団の中に寝かしつけ、黒髪に触れる。


 ――と、その時……

 勢いよく襖が開き、刀を抜いた大勢の武士に取り囲まれた。


「茶々姫様の命を狙うくせ者め!殿の目を欺けても、この羽柴秀吉の目は欺けぬ!城の周辺で相次ぐ人斬りもお前の仕業であろう!この忍びを捕らえろ!捕らえるのだ!」


 多勢に無勢。

 茶々姫の前で人間を殺めたくなかった俺は、無抵抗のまま羽柴秀吉に捕らえる。


 泣き叫ぶ茶々姫……。


 騒ぎを聞きつけ寝所から飛び出したイチ……。


 俺は姿を変えその場から逃げることも出来たが、そうはしなかった。


 イチや茶々姫の目の前で、我が身を鼠や蝙蝠に変えたくはなかったからだ。


 秀吉は勝ち誇ったように俺を捕らえた。俺が城下を恐怖に陥れた人斬りであったと自白させる為に、秀吉は地下牢で連日激しい拷問を繰り返した。


 秀吉は俺の苦しむ様を笑いながら見ていたが、どんなに責めを与えても俺が自白しないことに苛立ちを覚えていた。


「秀吉、まだ口を割らぬか」


「殿、口の堅き男でございます。人斬りはこやつの犯行に違いありませぬ。即刻打ち首に」



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