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「浅井長政を自害に追い込んだわしが憎いか?」
「はい、憎くてたまりませぬ」
わたくしは兄上を睨みつける。
「ふはははっ、市は正直者だな。よい目をしておる。おなごにしておくには惜しいのう。天下の武将織田信長にそのような口をきけるのは、市だけだ。わしは浅井家を滅亡させた。だが、三人の姫は織田の血を引く大事な姫だ。このわしが殺めるはずはなかろう」
「兄上ならやりかねぬかと」
兄上は声を上げて笑った。
「それより羽柴秀吉は茶々姫の命を狙ったくせ者に、目星がついておるようだな」
「目星?くせ者の正体がわかっておると申されるのか?」
「近い内に、わしにくせ者の首を差し出すそうだ」
「首を……」
「城の外でも人斬りが相次いでおる。このまま見逃すわけにはいかぬからな。市は安堵して清洲で過ごすがよい」
「……はい」
人斬り……。
もしかしたら、吸血鬼退治の為に丈が殺めているのやも……。
だとしたら……
羽柴秀吉に捕らえられれば、丈は打ち首に……。
吸血鬼なる人の生き血を吸う魔物など、誰が信じよう。そのようなことを、兄上に申し上げても笑い飛ばされるだけじゃ。
北近江での赤子の変死が、吸血鬼と因果関係があるとは、誰も信じるはずはない。
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