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「はい、殿の命令により、この秀吉が人斬りを捕まえることとなりました。よって清洲城にて、お市の方様及び姫様の警護にあたる所存です」


「わたくし達の警護とな?」


「はい、この秀吉がお市の方様のお側に……」


 わたくしには秀吉の魂胆がわかっていた。兄上に気に入られる為に、躍起になっているのだ。


 その目は獣の如く、欲と野望に満ちている。ぎらぎらとした脂ぎった目に、わたくしは嫌悪感すら抱いていた。


「わたくしには丈がおるゆえ、羽柴殿の警護は必要ござりませぬ」


「丈?先ほどの忍びでございますか?」


 秀吉はギョロリとした目で天井を見上げた。


「青き瞳、異国の人間でございますよね?異国の人間が果たして信じられましょうか?」


「兄上に仕える忍び、そなたにとがめられる筋合いはない」


「さようでございましたな。失礼つかまつりました」


 秀吉はわたくしに頭を垂れると、再び天井を見上げ部屋を出て行った。


 ――それから、数日後。

 兄上がわたくしの元を訪れた。


「市、城内が騒がしいようだな」


「はい、茶々を襲ったくせ者は、浅井の血を絶やすが目的かと」


「浅井の血を絶やすが目的?すなわち、わしが命じたと?」


「違うのですか?」


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