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市side

138

「お市の方様」


 襖の向こうで羽柴秀吉の声がし襖が開いた。丈はわたくしから離れたが、天井に飛び移ることが出来なかった。


「くせ者め!!」


 秀吉は刀を抜き、丈に刃先を向けた。丈は秀吉に背を向けたままだ。


 わたくしは咄嗟に丈を庇う。


「よさぬか、羽柴殿。この清洲城で血を流す気か。この者は兄上がわたくしにつけた忍びじゃ。怪しい者ではござらぬ」


「殿の?」


 秀吉は刀を鞘に収め、わたくしにこうべを垂れる。


「お市の方様、申し訳ござりませぬ。この者の容姿が茶々姫様を襲ったくせ者によく似ておったゆえ……」


「黒い覆面をつけ忍びの恰好をしておったのであろう」


「そうでござった」


 わたくしは丈に視線を向ける。


「丈よ、大儀であった。もう下がってよい」


「はい」


 丈は秀吉にこうべを垂れると、天井に飛び移る。


「……青き……瞳か」


 秀吉が丈の瞳の色に、怪訝そうに眉をしかめた。


「お市の方様、連日城の外に人斬りが現れ、織田に仕える武士が殺されております。茶々姫様を襲ったくせ者と同一人物だと思われます」


「人斬り?」


「はい、人斬りを目撃した者が申すには黒装束を見に纏っていたと」


「……黒装束」


「首を斬り落とし死体に火を放つ残忍な手口。茶々姫様を襲ったくせ者も、首筋に刃先を向けたとのこと。城の周囲の警護を固め、色々調べさせましたが、どうやらくせ者は城内に逃げ込んだもよう」


「……城内に!?」


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