ジョエルside

133

 サワサワと夜風が吹く。

 俺は城の周辺で不審な動きをしている一人の侍を見つけた。


 夜の闇で……

 侍の目が赤く光った。


 ――『丈、城の外に黒い狼がおるのじゃ。夜になると城の周りを彷徨いておる』


 茶々姫の言葉を思い出し、侍の背後に降り立ち、人間の姿に戻る。


「待て。俺を追って来たのか」


 男はゆっくりと振り向き、不敵な笑みを浮かべた。


「お前が我らの命を狙う裏切り者か。ダンピールやクルースニク同様、吸血鬼の命を狙う敵」


 赤い目をした侍が鞘から刀をき、身構えた。


「青い瞳……。お前が、ジョエルか」


「なぜ、俺の名を!?」


 男は口角を引き上げ笑った。


「やはりそうか。イチとはお市の方。遊女の言った通りであった」


「遊女……?」


「我らに永遠の命と、快楽を与えた遊女こそが、我らの姫君」


 城下の者を次々と吸血鬼にしたのは遊女?


 俺やイチのことを知る遊女が、この時代に?


 俺は鞘から刀を抜く。

 刀は不気味な光を放つ。


 刃の鋭い音が夜の闇に響く。激しい戦いの末、男の首を斬り落とした直後、俺の背後で声がした。


「人斬りだー!」


 俺は慌ててその場を立ち去る。首を斬り落とした吸血鬼の遺体を燃やすことは出来なかった。


 ――清洲城に戻り、天井に潜み、茶々姫の寝所を見張る。布団の中で眠る茶々姫に、黒い人影が近付いた。顔は黒い覆面で隠し、俺と同じ忍びの格好をしていた。

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