black 3

ジョエルside

129

「丈よ、わしは天下人織田信長なるぞ。なぜ浅井の不穏な動きを報告せぬ」


「申し訳ございません。わたくしはお市の方様に仕える身。お市の方様と姫君をお守りするが役目」


「織田の忍びでありながら、市の命令に従うと申すのか」


「はい」


 信長は俺を睨みつけ刀を掴んだが、俺はそれに動ずることなく、信長を見据えた。


「ふはははっ、このわしよりも市に従うとな。そなたの忠誠心は真であるな。まぁよい、今回のことは不問に致すゆえ、これからも市の側に仕えるがよい」


「はい」


 俺は信長に深々とこうべを垂れる。イチと三人の姫君は、市の兄、信包の庇護を受け、清洲城で平穏に過ごしていた。


 羽柴秀吉は何かにつけイチの元に顔を出すが、イチも三人の姫君も秀吉を毛嫌いしていた。


「丈、猿がまた来ました。茶々は猿が嫌いでございます」


「茶々姫様、猿とは?」


「秀吉のことじゃ」


「羽柴様でございますか?ククッ」


 茶々姫の言葉に思わず苦笑する。


「猿は母上様を好いておる。茶々は丈の方が好きでございます」


「ありがたき幸せ。丈も茶々姫様が好きでございますよ」


 俺を真っ直ぐ見つめ微笑む茶々姫。

 赤子の頃より成長を見守っていた幼き姫君に、深い愛情と愛しさを感じていた。



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