ジョエルside

128

 俺は燃え盛る小谷城を遠巻きに見ながら、山に火を放った。


『“天正元年九月浅井長政自害”』

 日本の歴史に記載されていた文献通り、浅井長政は織田信長に敗れ自ら命を絶った。


 戦国の世とは……

 哀れなものよ。


 そして……

 俺達……ヴァンパイアも……。


 山に隠れていた吸血鬼を、一網打尽にしてくれる。


 山に火を放ち、逃げ惑う黒狼にやいばを向ける。


 白い牙を向き、襲い掛かる狼の首を俺は斬り落とす。


「お前もヴァンパイア、なぜ同族を殺める。人に飼い慣らされた裏切り者め!」


 武士の風貌をした男が、俺に刄を向けた。男の目は赤く、口からは鋭い牙が覗いている。


 男は浅井軍に挙兵していた武士だ。


「この時代に吸血鬼など必要ない」


「即ちお前も必要ないと言うことだな」


「俺はまだやるべきことがある」


「お前も所詮吸血鬼だ!死ねー!」


 男は刀を振り上げた。

 俺の刀と刃先が交わり、激しい攻防に火花が散る。


 夜の闇に奴の目が赤く光った。


「お前は何処からタイムスリップして来たんだ!お前がこの時代の人間を次々と吸血鬼にしたのか!」


「タイムスリップ?一体何のことだ!」


 刀を構えジリジリとにじり寄る男。この男が別の時代からタイムスリップしたのではないとしたら……。


 誰かの手により、この男も吸血鬼にされたと言うのか?


 刃先がクロスしたまま、俺達は睨み合う。迫り来る炎に照らされた顔は、この世のものとは思えない形相。


 俺の刄は奴の体を斬り裂く。獣のごとき呻き声を上げ、奴の体はドスンと地面に沈み、あっという間に火に包まれた。


 一体誰がこの地に……

 まさか……始めからこの時代に吸血鬼がいたと言うのか?


 そんなはずはない。


 赤く燃え盛る山から逃げ出そうとする黒狼や蝙蝠の首を、俺は次々と斬り落とす。


 同族を殺しても、人間になどなれない俺は、この身も炎の中に投じるべきだったが、俺にはまだ成すべきことが残っているという使命感から、我が身を投じることは出来なかった。


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