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「殿!武田信玄殿が……亡くなられたそうです!」


「なんと!」


 信玄の急死により織田軍の包囲網は完全に崩壊した。


 ――天正元年、戦火の中、わたくしは三番目の姫、ごうを出産する。


 茶々は五歳、初は三歳。

 茶々は賢き姫に成長していた。


「母上様、姫君の誕生おめでとうございます」


「ありがとう茶々、初。そなた達の妹ですよ」


「可愛い。母上様、丈に見せてもよいですか?」


「丈に……?」


 実の兄である織田との長き戦いに疲れ、わたくしは丈と暫く会話も交わしていない。


 丈は兄上に仕える忍び。

 この戦いの最中、この屋敷の屋根裏に、今も丈が潜んでいるとは思えなかった。


「丈はもうここにはおりませぬ」


「母上様は丈をお忘れですか?丈は茶々や母上様の傍にいつも仕えておりまする」


「……丈が今も我が城におるとな?」


 天井を見上げる。

 天井からは物音ひとつしない。


 まさか……

 丈がまだこの城にいるとしたら、それは兄上の命令により、わたくし達を見張るが目的。


「大局、大局はおらぬか。姫を寝所へ」


 隣室で待機していた大局を呼び、姫を託す。


「はい、畏まりました。姫様、もうおやすみの時間でございますよ」


「母上様おやすみなさいませ」


「良い子じゃ。ゆっくりやすむがよい」


 わたくしは誰も居なくなった室内で、天井を見上げ声を掛けた。


「丈……そこにおるのか?」


「はい」



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