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「何をおおせですか、わたくしは殿と共に戦います」


「お市……」


 殿の腕に抱かれ、わたくしは兄上と決別することを決めた。


 ――“元亀元年六月、浅井は朝倉軍と共に、近江国姉川で織田徳川連合軍と戦い、織田軍に敗退した。”


「このまま終わらせてなるものか」


 “浅井は九月に朝倉軍や延暦寺、一向宗徒と共に再び信長への攻勢を強め、織田信治らを撃ち取る。”


「殿……織田が足利に和睦の調停を依頼したそうです!」


「和睦だと?織田の謀に過ぎぬ」


 信長はさらに浅井を追い詰め、“元亀二年浅井と密接な関係にあった延暦寺を比叡山焼き討ちにし、壊滅させた。”


「兄上は鬼じゃ……」


 わたくしは織田と浅井の戦いに胸を痛め、吸血鬼のことは忘れていた。丈も織田に戻ったものと思っていた。


 ――元亀三年。兄信長は北近江に来襲した。


「朝倉義景に援軍を要請するのだ」


 義景は一万五千の軍勢を率いて近江に駆けつけた。


「殿、将軍の要請で武田信玄が進発し、織田徳川連合軍を三方ヶ腹原にて撃破したとのことです。すでに武田軍は三河に向かったと」


「そうか、我が軍は北近江の織田軍をこの地に封じ込めるのだ!」


 だが雪深き十二月、“朝倉軍が兵の疲労と積雪を理由に越前に帰国し、包囲網が緩み織田軍も美濃に逃げ延びた。”


「兄上が美濃に戻ったと……?」


「朝倉軍が撤退し、追撃は困難であった。武田が再度出兵要請の文を出したが、朝倉からの返事はない」


「朝倉殿に見離されたと?」


 その後、“武田信玄の働きにより、徳川領の野田城を攻め落とした。”


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