市side
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「また山火事でございます。物騒でございますな」
「山火事とな?」
「はい。お市の方様、ちまたでは辻斬りが相次ぎ、その犯人が火を放っているとの噂で持ちきりでございますよ。首を斬り落とすそうにございます。ほんに恐ろしい。辻斬りなど、はよう捕まえて欲しいものじゃ」
「辻斬り……」
吸血鬼とやらの退治の為に、丈が行っているに違いない。
吸血鬼……。
その不気味な言葉は、遠い昔……何処かで聞いたことがある。
――吸血鬼退治……
――燃え盛る炎……
頭が割れるように痛み、わたくしはその場で気を失った。
「お市、大丈夫か?」
じょう……
丈なのか……。
瞼を開くと、私は布団に横になっていた。
「殿……わたくしは……」
「夕げのあと、倒れたのだ。御匙によると、おなご特有の血の病だそうだ。初を産んで日も浅い、無理をするでない。よいな」
「……はい」
記憶を辿ろうとすると、必ず頭が痛み目眩に襲われ意識が途切れる。
――『イチ……』
丈にそう呼ばれた気がした。
――『イチ……』
鼓膜に響く、懐かしき呼び名。
丈の腕に抱かれ……
わたくしは……不埒なことを。
「お市、我らは織田徳川軍と戦うゆえ、茶々や初を連れて織田家に戻るがよい。今なら織田信長殿もお市や姫を受け入れてくれるだろう」
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