122

「大丈夫でございますか?」


「案ずるでない。丈は……吸血鬼とやらが、この城下に蔓延し、人間と子をなし赤子が死んでおると言うのじゃな」


「はい」


「悪霊祓いをすれば、よいのか?」


「お市の方様、吸血鬼を退治するためには、太陽の光に晒すか、首を斬り落とす、心臓に杭を打つ、死体を燃やすなどの方法しかございません」


「心臓に……杭じゃと……。っ……」


 イチは頭を押さえ、何かに怯えたように顔を歪め、再びその場に倒れた。


 俺は畳に伏せたイチを抱き上げる。


「イチ……無くした記憶を無理に思い出そうとするからだ。深呼吸して気持ちを落ち着かせろ」


「……じょう」


 一瞬、イチの黒い瞳が俺の姿を捕らえたが、すぐに正気に戻りキツい眼差しへと変わる。


「……何をするのじゃ。わたくしに触れるでない。わたくしは……浅井長政の……」


 狼狽えるイチに、俺はひれ伏す。


「お市の方様、ご無礼つかまつりました。体調がすぐれないご様子だったのでつい……介抱を」


 イチは土下座する俺に、いつもと変わらぬ視線を向けた。


「……わたくしこそ声を荒げてすまなかった。それより丈、吸血鬼とやらを退治するには首をはね、その体を燃やせばよいのじゃな」


「この城下に何十……、いや何百体と潜んでおるやもしれません」


「何百体……。それでも……その方法しかないのじゃな?」


「はい」


「この近江を魔物の棲みかにしてはならぬ。茶々や初を守るためじゃ。民が知れば騒ぎになるであろう。丈、吸血鬼退治は密かに行うのじゃ、よいな」


「畏まりました」


 俺はヴァンパイアでありながら、この時代に蔓延する同族の吸血鬼狩りをすることとなった。


 誰の手も借りず、俺は一人で立ち向かう。山に潜む吸血鬼は日中は洞窟に潜んでいるに違いないが、陽の高い時間は俺も動くことが出来ない。


 毎夜、血を求め山から這い出す吸血鬼達を、俺は辻斬りのこどく待ち構え、首を斬り落とし遺体に火を放った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る