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「大丈夫でございますか?」
「案ずるでない。丈は……吸血鬼とやらが、この城下に蔓延し、人間と子をなし赤子が死んでおると言うのじゃな」
「はい」
「悪霊祓いをすれば、よいのか?」
「お市の方様、吸血鬼を退治するためには、太陽の光に晒すか、首を斬り落とす、心臓に杭を打つ、死体を燃やすなどの方法しかございません」
「心臓に……杭じゃと……。っ……」
イチは頭を押さえ、何かに怯えたように顔を歪め、再びその場に倒れた。
俺は畳に伏せたイチを抱き上げる。
「イチ……無くした記憶を無理に思い出そうとするからだ。深呼吸して気持ちを落ち着かせろ」
「……じょう」
一瞬、イチの黒い瞳が俺の姿を捕らえたが、すぐに正気に戻りキツい眼差しへと変わる。
「……何をするのじゃ。わたくしに触れるでない。わたくしは……浅井長政の……」
狼狽えるイチに、俺はひれ伏す。
「お市の方様、ご無礼つかまつりました。体調がすぐれないご様子だったのでつい……介抱を」
イチは土下座する俺に、いつもと変わらぬ視線を向けた。
「……わたくしこそ声を荒げてすまなかった。それより丈、吸血鬼とやらを退治するには首をはね、その体を燃やせばよいのじゃな」
「この城下に何十……、いや何百体と潜んでおるやもしれません」
「何百体……。それでも……その方法しかないのじゃな?」
「はい」
「この近江を魔物の棲みかにしてはならぬ。茶々や初を守るためじゃ。民が知れば騒ぎになるであろう。丈、吸血鬼退治は密かに行うのじゃ、よいな」
「畏まりました」
俺はヴァンパイアでありながら、この時代に蔓延する同族の吸血鬼狩りをすることとなった。
誰の手も借りず、俺は一人で立ち向かう。山に潜む吸血鬼は日中は洞窟に潜んでいるに違いないが、陽の高い時間は俺も動くことが出来ない。
毎夜、血を求め山から這い出す吸血鬼達を、俺は辻斬りのこどく待ち構え、首を斬り落とし遺体に火を放った。
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