black 2

ジョエルside

121

 ――翌日

 夕刻、長政がいないことを確かめ、俺は天井を叩く。


「みなのもの、下がるがよい」


 イチの声とともに、侍女が部屋を出たことを確認し、俺は天井から降り立つ。


「丈、どうであった?やはり織田の策略か?」


「いえ、殿ではございません。この城下には魔物が潜んでおります」


「魔物とな?」


「はい、戦いに敗れ生き絶えた者達が蘇り、城下を荒らしております」


「死者が蘇ったじゃと?それは物の怪や悪霊に取り憑かれてしまったということか?」


 俺は首を左右に振る。

 物の怪や悪霊よりも……

 手強い相手だ……。


「お市の方様がお考えになる悪霊とは異なり、吸血鬼なる生き物。人間の生き血を吸い生きているのです。そして吸血鬼に血を吸われた者は、同じ吸血鬼となるが定め。吸血鬼となった男女が人間と交わり子を宿したなら、その赤子は死ぬ確率が高い。それゆえ城下で赤子の死が相次いだのでしょう」


「吸血鬼……?」


 イチは吸血鬼と聞き、突然気を失った。

 俺はイチに駆け寄り体を支える。イチの体に触れたのは、この時代にきて初めてだった。


「イチ……イチ……しっかりしろ」


 イチがゆっくりと瞼を開く。

 俺と目が合い、声を荒げた。


「無礼者!」


 俺はイチから離れ、こうべを垂れる。


「申し訳ございません。お市の方様が突然倒れられたゆえ……」


「……すまぬ。吸血鬼という言葉を、どこぞで聞いた気がしたのじゃ。思い出そうとしたら頭が割れるように痛み、突然目眩が……」


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