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 ◇


 ―永禄十二年―

 茶々姫は一歳半となり、イチは二人目の子供を身籠る。


 城下ではいまだに赤子の突然死が相次いでいた。


 奇病が流行り、やがて信長の耳にも入る。


「丈か?」


「はい」


 信長は天井を見上げた。

 鋭い眼差しは、衰えることはない。


「赤子ばかりが亡くなる流行り病はまことか?茶々姫に大事はなかろうな。市のややは順調か?」


「はい、お市の方様も茶々姫様も稚様も健やかでございます」


「そうか、武家だけではなく、町民の赤子まで相次いで亡くなっておる。茶々や稚に厄が起きぬよう祈祷するのだ」


「畏まりました。そう申し伝えます」


 小谷城で茶々姫と稚の為に、連日連夜祈祷が行われた。


 ――“元亀元年、信長が長政と交わした『朝倉への不戦の誓い』を破り、朝倉方の城を攻めた。”


「殿、織田は浅井との同盟を裏切ったのです。このまま見逃すわけにはいきませぬ。今こそ織田軍を進撃するのです」


「織田軍を進撃?しかし……」


「殿!ご決断を!」


 俺は天井裏より、長政と家臣の会話を盗み見る。


 “長政は織田との同盟よりも、朝倉との関係を重視し、織田徳川軍を襲撃”するが、信長は間一髪近江を脱出した。


 これにより浅井と織田の友好関係に大きな亀裂が入り、やがて両家は断絶することとなる。

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