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万が一、俺とイチの子であるならば、茶々姫はダンピール。“ダンピールとは、外見は人間だが吸血鬼を探知し、吸血鬼を殺す能力を持つ”。
人間とヴァンパイアの混血であるならば、短命ですぐに死ぬ命。成長すればやがて俺を追い詰め殺すだろう。
天井の隙間から見る茶々姫の瞳は黒く、濁りはない。乳もよく飲み、よく泣きよく眠る。
茶々姫は俺の子ではない。
人間だ……。
――出産から数ヶ月の時が経ち、茶々姫は命を落とすこともなく、健やかに成長した。
イチは姫を抱き上げ、幸せそうに微笑む。
甲斐甲斐しく夫に仕える良き妻であり、よき母。
「丈、そこにいるのでしょう。今は誰もおらぬ。降りて来るがよい」
「はい」
俺は天井の板を外し、畳の上に降りる。
「お市の方様、姫君のご誕生おめでとうございます」
「丈、御役目ご苦労であった。兄上はどんなご様子ですか?」
「殿もたいそう喜んでおいででした」
「兄上のことじゃ、いつ浅井を敵に回すやもしれぬ。何か不穏な動きあらば、すぐわたくしに知らせるのですよ」
「はい、畏まりました」
イチの手に抱かれた茶々姫が、俺を見て笑った。
「まぁ、ご機嫌だこと。殿方はむずがるのに、茶々は丈を好いておるようじゃな」
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