ジョエルside

110

「丈よ、姿を現すがよい」


「はい」


 俺は天井の板を外し、畳の上に降り立つ。織田信長はその鋭い眼差しを俺に向けた。


「市の子は無事に産まれたか?」


「はい、姫君のご誕生でございます。殿、おめでとうございます」


「姫か、まぁよい。戦国の世、姫も宝なり。浅井の動きはどうだ?浅井の宿敵である六角の勢力は南近江の甲賀群に撤退。市とも仲睦まじくやっておるのだろう?織田を裏切るような動きはないだろうな」


「はい、そのようなことは決してございません」


「丈、引き続き浅井を見張るのだ。よいな」


「はい」


「ところで、以前から気になっておったのだが、丈の目は海の如く青い。言葉も他の武将とは異なる。異国よりこの地に参ったのか?」


「わたくしは行き倒れの身。異国より流れ着いたわたくしを、殿が拾って下さったのです。この目を見ると他の武将が気味悪がるゆえ、忍びとなり支えるようにと」


「わしがそちを……?最近どうも物忘れが酷くてな。そうであったか。わしがそちをのう……」


 織田信長は訝しげな表情で俺を見つめたが、すぐに「そうであったな」と頷いた。


 織田信長の記憶は、俺の魔術で操っている。この魔術はセバスティがこの世を去る時に、俺に授けし魔力だ。


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