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 翌日、わたくしは兄上に呼ばれ、こう告げられた。


「市の腹の子は、織田家の子、すなわち浅井長政の子なり。よいな」


「兄上……」


 わたくしの稚は、浅井長政殿の子?


 わたくしの稚は……。


『殿……お呼びでしょうか』


 城の天井から声がした。

 わたくしは天井を見上げる。


じょうよ、市の稚を守るのだ。市の稚は織田家の子なり。忍びとし、浅井長政に嫁ぐ市に仕えろ」


『はい、我が命に代えても、市姫様を一生お守り申し上げまする』


「万が一、浅井が織田を裏切り、市や子を殺めるようなことあらば、すぐにわしに知らせるのだ。丈、市に顔を見せるがよい」


 天井が開き、するりと畳の上に降り立ち、わたくしにこうべを垂れた忍びの者。


 黒い覆面で頭と鼻と口元は隠され、見えているのは目だけ。


「丈でございます」


 どこかで聞いた……

 懐かしい声……。


 伏せていた目が……

 わたくしを見上げる。


 その瞳は……

 どこか見覚えのある……


 ――海の如き、青き瞳をしていた。






 ~前篇 First love 完~



 ※引き続き

 後篇 Endless loveの連載をします。

(ジャンルは現代ファンタジーのままではありますが、後篇の時代背景は現代とは異なります。尚、史実とは異なる展開になっています。)

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