red 9
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――永禄十年。
「市、市、やっと目覚めたか」
懐かしい兄上の声に、わたくしは目を覚ます。
「たいそう、魘されていた。市、大事はないか?」
「……兄上!わたくしは?どうなったのじゃ?炎が……屋敷の中を炎が……」
「縁起でもない、悪い夢を見たものだ。市はそそっかしくていかん。ちと、女らしゅうならんとな」
兄上は安堵の表情を浮かべ部屋から出て行く。
「市姫様、殿がたいそう心配なさっておいででしたよ。片時も離れず、それはそれは甲斐甲斐しく市姫様のお世話を……」
「お花、わたくしは気を失っておったのか?」
「はい、半時ほど気を失っておいででしたよ。石垣で足を滑らせ転倒し、気を失っておられたのですよ。万が一転落でもされたら、一大事でござった。ほんに、ご無事でなによりでございます」
「……たったの半時?わたくしは石垣から転落したのではないのか?転倒しただけ?……今まで……長き夢を見ていたのか?」
「頭を強く打たれ深い眠りに落ち、たいそう心配致しました。どのような夢でございますか?酷く魘されておいでで……」
「あれが……夢じゃと……」
燃え盛る炎……
崩れ落ちる……天井……。
わたくしの名を呼ぶ……
異国の……殿方……。
殿方の……名は……
殿方の名は……。
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