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「セバスティ、俺からイチを奪う気か?俺はイチをお前に譲らないよ」
ジョエルはセバスティに、優しい笑みを浮かべた。
「行け、セバスティ。お前は生き延びろ!俺の命令が聞けないのか!」
「ジョエル様……」
セバスティは泣きながら、鼠へと変身し、壁の小さな穴から入り込み床下へと降りた。
火は地下室を包み込み、わたくしは呼吸すら息苦しくなる。ジョエルはわたくしを抱き締め、迫り来る炎から守った。
「……ジョエル、逃げて下さい。お願い……ジョエル……」
「俺はイチをおいて、逃げたりはしないよ」
地下室の扉の外で、春乃の悲鳴が聞こえた。数分後、炎に包まれた扉が蹴破られ、セバスティの姿が現れた。
セバスティは炎と太陽の光に身を焼かれ、目をカッと見開き大きく口を開け、「ウォー!!」と、呻き声を上げた。
体を焼かれる痛みに苦しみながらも両手を差し出し、ジョエルにわたくしを渡すように促す。リビングの床には春乃が目を開けたまま口から血を流し生き絶えていた。
「……イチ様を早く俺に。ジョエル様は……鼠に変身して床下から地面を掘り、暗い森へ逃げて下さい。俺の魔力は……ジョエル様に……授けま……す」
息も絶え絶えに言葉をいい終えたセバスティは、優しい笑みを浮かべた。
――次の瞬間……
セバスティの頭が、サラサラと崩れていく。
「……にげ……て……下さい」
砂の山が崩れ落ちるように、セバスティの体は炎の中へと消えた。
「セバスティー!!」
火の粉の舞う地下室で、ジョエルはわたくしの体を抱き上げた。リビングには太陽の光が差し込んでいる。
「なりませぬ……。行けば……ジョエルも……灰に……」
「イチを必ずここから救い出す」
ジョエルはわたくしの体にマントを被せ炎から守り、燃え盛る火の中を突き進もうとした。
――と、その時……
ガタガタと大きな音がし、突然天井の煉瓦が崩れ落ちた。
わたくし達の頭上に……
煉瓦が……雪崩の如く崩れ落ちる。
「うわぁー!!」
「きゃああー……」
春乃は暖炉だけではなく、屋敷の至るところに灯油をまき、火を放っていたのだ。
屋敷はすでに火の海となり、春乃の体をも燃え尽くす。
そして……
セバスティは太陽の光に晒され、赤い炎に灰までも焼き付くされ、この世から消えた……。
ジョエルは頭上から落下する煉瓦と燃え盛る炎からわたくしの身を守ろうと、自らの体を投げ出し、わたくしに覆い被さり、炎の中でわたくしに最後の口吻を交わした。
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