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 手にしていた杭が、地下室の床に落ちゴロンと大きな音を立てて転がる。


「イチ……」


 ジョエルは棺から起き上がり、わたくしを抱き締めた。


「なぜ、一思いに俺を殺さない」


「わたくしは、ジョエルが吸血鬼でも構わぬ。ジョエル……わたくしをあなたと同じ吸血鬼にして下さい。春乃さんがあなたの命を狙っています。警察もマハラ殺しの犯人を必死で捜している。わたくしと一緒に逃げて下さい」


「イチ……」


「お願いでございます……。ジョエル、わたくしにあなたと同じ永遠の命を与えて下さい……」


 ジョエルはわたくしの長い黒髪を掬い上げ、首筋に唇を近付け強く吸う。覚悟を決め瞼を閉じるとチクリと首筋に痛みが走った。


 唇を離したジョエルは、わたくしの目を見つめた。


「その紅き唇を……俺に差し出せ」


 ジョエルはわたくしの唇に、熱き口吻をする。けれどジョエルの口吻は血の味などしなかった。


「……なぜ……吸血してくださらぬ……。なぜ……わたくしを……」


 わたくしはハラハラと泣きながら、ジョエルに縋り付く。ジョエルは悲しい瞳でわたくしを見つめた。


「イチ……さよならだよ。元気でな」


「ジョエル、お願い。ジョエル……わたくしもお供します。一緒に連れて行って……」


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