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 春乃は地下室に通じる暖炉の隠し扉を開け、わたくしに先に入るように告げた。


「イチ、早く行きなさい」


 わたくしが地下室に入ると、春乃は隠し扉を開けたまま、わたくしをじっと見据え、無言で扉を閉めた。


 わたくしは暗闇の中を、ペンライトの薄灯りだけを頼りに進む。


 ジメジメとした狭い廊下を進むと、その先には広い地下室があり、棺が二つ並んでいた。


「どうか……この中に……ジョエルがいませぬように……」


 ――棺を開けると……

 その中には……


「……ジョエル」


 白い肌……

 金色の髪……。


 紛れもなく、ジョエルの姿……。

 わたくしは自分の目を疑う。


 ――『イチ、彼らは悪魔よ。人間の生き血を吸い、次々と惨殺する悪魔。イチ、これ以上犠牲者を出してはいけない。私とこの町を守るのよ』


 春乃の言葉が、何度も脳裏を過ぎる。

 

 ジョエルは吸血鬼なのだ。

 人間を惨殺する悪魔……。


 眠っているジョエルの胸の上で、杭を振り上げた。ブルブルと体が震える。


「出来ませぬ……。このような酷いこと……わたくしには出来ませぬ……」


 涙が頬を伝い、棺の中で眠るジョエルの手の上に落ちた。


「……イチ、殺るがいい。イチの手で殺されるのなら、本望だ」


「……ジョエル!?」


 閉じていたジョエルの瞼が、カッと見開いた。青き瞳は暗闇で紅く光る。


「さぁ、イチ。早く殺るがいい。これで俺もやっと永遠の眠りにつける」


 ジョエルはわたくしの両手を掴み、杭を自分の胸へ近付けた。


「なりませぬ、ジョエル。わたくしの手を離して……!」

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