市side

98

「ジョエル!」


 早朝、ジョエルが死ぬ夢を見たわたくしは、泣きながら目覚める。


 ベッドに横たわっていたわたくしは、昨夜の事を思い出し胸騒ぎがした。


 ジョエルが今夜旅立つ。

 それは……どういう意味なのだろう。


 ジョエルは本当に、祖国であるヨーロッパに帰国するのだろうか?


 そうであるならば……

 ジョエルとセバスティを無事に祖国へ逃がしたい。


 今日の午後一時、春乃がこの屋敷に訪ねてくる前に、ジョエルとセバスティをこの屋敷から脱出させなければ……。


 わたくしは洋服を身に着け、セバスティの寝室に入る。血に染まったシーツの上に、瀕死の状態だったセバスティの姿はなかった。


 ――リビングの地下室……。

 二人が吸血鬼であるなら、春乃の言う通り、地下室の棺で眠っているはず。


 リビングに入ると、そこには新聞を手にした春乃の姿があった。


「春乃さん……、どうやって屋敷の中に……」


 リビングの窓が割られ、崖下から巻き上げられた潮風が室内に吹き込む。


「まさか……勝手に……。約束は午後一時のはず。お帰り下さい」


「イチ、この新聞記事を見て。マハラが殺されたのよ」


「……マハラが!?」


 ダイニングテーブルに広げられた新聞記事。そこにはマハラが何者かに襲われ、銃で身を守ろうとしたが、犯人にバルコニーから突き落とされ、殺害されたと書かれていた。


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