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山道に入り、春乃の運転は荒くなる。助手席に座るわたくしの体は、シートベルトをしていていても上下に激しく揺れた。
深い森の中を照らす車のライト。
蝙蝠はまだ夜空を飛んではいない。
「イチ、ジョエルに注意されていることはない?」
「注意でございますか?」
「例えば、してはいけないと言われていることよ」
「……それならば、暖をとるときは暖炉に薪をくべてはならない。エアコンを使用するようにと言われております」
「人が入れるほどの立派な暖炉があるのに、薪をくべるなと?」
「……はい」
春乃は屋敷の敷地内で、急ブレーキを踏んだ。ジョエルのバイクがないことを確認すると、エンジンを切りシートベルトを外し運転席から降りた。
「イチ、寒いわね。送ってあげたのだから、熱いお茶くらいご馳走してよ」
「……それは」
――『屋敷には誰も入れてはならない』
ジョエルの言葉を思い出し躊躇するわたくしに、春乃は笑顔を向ける。
「私達、友達でしょう。お茶を飲んだらすぐに帰るから。ジョエルには黙っていれば、わからないわ」
「はい」
家まで送っていただいたのだから、お茶くらい出しもてなすのは当然のこと。
わたくしは玄関の鍵を開け、春乃を屋敷内に招き入れた。
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