red 8
市side
90
「イチ、ジョエルはどうしたの?」
「急用があり早退しました」
「そういえば、マハラも早退したわね」
「マハラも……でございますか?」
不吉な胸騒ぎに襲われながらも、ジョエルに言われた通り、わたくしは構内にある公衆電話でタクシー会社に電話を掛ける。
「あっ……間違えました。申し訳ございませぬ」
ボタンを押し間違え、硬貨を消費してしまった。
「イチ、何をしてるの?」
「ジョエルにタクシーで帰るように言われ、タクシー会社に電話をしようと思っているのですが、このボタンが上手く操作できなくて……」
「わざわざタクシーを呼ばなくても、私がジョエルの家まで送ってあげるわ」
「でも……。ジョエルの言いつけを守らねば叱られてしまいます」
「ジョエルにはタクシーで帰ったと言えばいいでしょう。そのタクシー代でまた欲しい本が買えるわよ。ほら、イチ行くよ」
春乃に手を掴まれ、わたくしは校舎の裏側に位置する駐車場に行き、車に乗り込む。
「イチ、実はね。マハラは姉の恋人だったの」
「えっ……」
「姉が投身自殺した時、マハラは警察から真っ先に疑われ、私達家族もマハラを責めた。でも、姉の死後、日記が出てきたのよ。その日記には、どれだけマハラのことが好きで、どれだけマハラを愛しているか、姉の切実な想いが書かれていた。マハラと姉は将来結婚の約束をしていたの。そんな姉が自殺するなんて有り得ないでしょう」
春乃は車を運転しながら、わたくしに姉とマハラの関係を告げた。
「私とマハラは、秘かに調べていたのよ。この町に怪しい人物がいないか……。そして最も怪しい人物を大学で見つけたのよ」
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