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 俺は瞬時に飛び掛かり、足で鳥籠を払い退ける。鳥籠は勢いよく飛び、窓ガラスを突き破りバルコニーへと転がった。


 マハラはナイフの刃先を俺に向けた。俺はジリジリと追い詰められる。


「マハラ、ナイフで俺達は殺せないよ」


「ならば、これでどうだ」


 マハラはデスクの抽斗から、銃を取り出した。


「この銃には、呪文を刻んだ銀の銃弾が込められている」


「銀の銃弾……」


 マハラは銃を両手で構えた。


「亡き祖父の遺品だ。死ね!ヴァンパイア!」


 俺は瞬時に大蝙蝠の姿に変身し、マハラの目を執拗に襲う。


「よ、よせ!わぁー……」


 マハラが発砲した銃弾は、天井や壁に当たった。視力を奪われたマハラはふらふらとバルコニーに飛び出し、籠の中の大蝙蝠を撃ち殺そうと銃を構えたが、足を滑らせバランスを崩しバルコニーから地面へと落下した。


 マハラの断末魔のような悲鳴と、グシャリと骨が潰れたような鈍い音がし、地面には赤い血が流れ出す。


 マハラはピクピクと痙攣していたが、目を見開いたまま動かなくなった。


「……マハラ」


 俺はバルコニーからマハラの最期を見届ける。人間の姿に戻り、大蝙蝠の入った鳥籠を掴み扉の鍵を開け、傷付いた大蝙蝠をシャツの胸元へ入れ、マハラの屋敷を出てバイクに飛び乗った。


「マハラが……ヴァンパイアでないとしたら……。一体誰が……」


 マハラの遺体に黙祷し、バイクのエンジンを掛けた。


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