87

 俺は鼠から人間の姿に戻り、籠の扉を開けようとしたが、扉には南京鍵が掛かっていた。


「セバスティ、すぐに出してやる」


 鍵を壊そうと、近くにあった金槌で叩いたが、鉄製の籠はビクともしない。


「くそっ!」


『ジョエル様……危険を犯して来て下さったのですね』


「セバスティ、当たり前だ。籠のままこの屋敷から連れ出してやる」


 俺は鳥籠を掴み、地下室の入り口に向かった。ドアに手を掛けた時、コツコツと床を鳴らす足音が響いた。


『……ジョエル様、ヤツです。隠れて……下さい』


 俺は鼠の姿に戻り、物陰に隠れる。ギーッと鈍い音がし、室内にマハラが入って来た。


 歪んだ鳥籠の扉と、コンクリートの床に転がる金槌を見て、マハラはニヤリと笑うと鳥籠を掴み地下室を出る。


 地下室の上にはマハラの書斎があり、マハラはデスクの上に歪んだ鳥籠を置き、開け放たれた地下室を見据え、低い声で叫んだ。


「出て来い、ジョエル。鳥籠の鍵が欲しければくれてやる。貴様がそこにいることはわかっているんだ。早く出て来ないと大蝙蝠の心臓にナイフを突き刺すぞ」


 バサバサと音がし、大蝙蝠の悲鳴ともいえる鳴き声が「キーキー」と響いた。


 俺は覚悟を決め人間の姿に戻り、地下室の階段を上がる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る