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「……未来?タイムスリップ?」
「イチは時空を越えて、ここに来たんだ。もう戦国時代には戻れない。ここは未来なんだ」
「……まさか」
「どうせ、自害して果てる命なら、俺の傍にいろ。俺と共にここで暮らそう」
「……ジョエル。わたくしは兄上の元に、もう戻れないのですか」
「諦めろ。戻る手立てはない。その方法がわからないのだ」
「ジョエルは……」
「俺はヴァンパイアではない。俺を信じろ。俺は人間を吸血したりはしない。イチの命を奪ったりはしない。俺はイチを……愛してしまったんだ」
イチを抱き締め、その体をソファーに沈める。イチは不安げな眼差しで俺を見つめた。
「わたくしを……愛していると……?」
「イチは俺が嫌いか?」
「ジョエルのことを想うと胸が苦しくて……。わたくしもジョエルと離れとうはない。ジョエルのことを好いております……」
「イチ……」
イチを抱き締め、何度も唇を奪う。俺達は共に時空の波にのみ込まれ、この世に導かれた。
それは違う時代に、違う国で生きるイチと、巡り逢うためだったのかもしれない。
夜の闇に潜み、闇の中でしか生きられない俺が、暗闇の中で見つけた一筋の灯り……。
それが……イチ……
お前なんだ。
◇
――夜明け前、ソファーで眠るイチを残し、俺は書斎を出る。
いつもなら、俺を呼びにくるセバスティの姿が見えない。
セバスティは部屋に戻った形跡もない。不思議に思った俺はリビングに入り、暖炉の中の隠し扉を開く。
地下に通じる階段を降り、セバスティの棺を確認したが、セバスティの姿はなかった。
「セバスティが戻らないとは珍しいな。セバスティのことだ、洞窟にでも潜んでいるのだろう」
俺はそのまま棺の中に入り、陽が落ちるまで眠った。
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